はじめに
透析患者の血圧低下は透析終了1時間前が多く、除水がリフィリングに影響をきたすことによって生じる場合がほとんどです。
しかし中には透析開始してすぐに、除水ゼロにしないといけないくらい血圧低下をきたす事例もあります。
その原因は何か、対策はあるのか、紹介していきます。
イニシャルドロップ
まず本題に入る前にイニシャルドロップを知っておきましょう。
体外循環時の初期血圧降下をイニシャルドロップと言います
透析治療の場合の初期血圧降下は、開始して30分未満かなぁ…と思います。
このイニシャルドロップは、よく人工心肺で用いられているイメージです。
透析治療では患者さんの状態、機械や条件設定などにより透析開始時に血圧低下を引き起こしてしまいます。
透析開始時の急激な血圧低下 原因7つ
- 透析膜
- 抗凝固薬
- 透析膜のγ(ガンマ)線滅菌
- 低栄養
- 弁疾患、貧血、糖尿病のトリプルパンチ
- 酢酸不耐症
- 迷走神経反射
透析膜のγ線滅菌や迷走神経反射は非常に珍しいものです。
では1つずつ解説していきます。
①透析膜
透析膜のPVPによる影響で、血圧低下が起きることもあります。
まれなケースです。
PVP(ポリビニルピロリドン)とは、PS膜とPES膜、PEPA膜の一部に添加されている、親水化剤のことです。
PVPが含まれていることによって生体適合性を高めています。
プライミングでしっかり洗浄しても、透析中ではPVPが溶出して体の中に入ってしまいます。
このPVPにアレルギーがある人は透析開始30分までに血圧が一気に下がるケースが多いです。
血圧低下以外にも、血小板減少、発熱などがあります。
PVPが原因と疑われる場合は、PVPを添加していない透析膜に変更します。
またPVPの影響以外にも、透析膜がその患者に対して、大きすぎることで血圧が下がるケースもあります。
透析膜が大きすぎると、透析膜のPV(プライミングボリューム:容量のこと)が多くなるので、その分血液が体外に出され、循環血液量の低下で血圧が下がってしまいます。
さらに、大量の透析液が血管内に入るので末梢血管抵抗が低下したり、血液粘性が低下することで一時的に血圧が下がります。
また、その患者の体格や、状態(低栄養など)に合っていない、大きな透析膜を使用した場合、血漿浸透圧が低下し血圧が下がってしまいます。
その患者の状態にあった透析膜を選択することが大事です。
大体の目安は下図のような感じです。
あくまで私の経験なので、参考程度に…
もちろん50kgだけど1.1平米の人とかはいます。

②抗凝固薬
抗凝固薬ではメシル酸ナファモスタットとヘパリンです。
ナファモスタットを使用するとアレルギー症状を起こし、呼吸困難や血圧低下をきたすことがあります。
使用して3回目まで(施設による)はこまめにバイタルチェックします。
1度アレルギー反応を起こしている人の、投与は原則禁止です。
またヘパリン、低分子ヘパリンの使用でHIT(ヘパリン起因性血小板減少症)が起きた場合、ショック症状を認める場合があります。
HITは透析導入後数回で症状としてあらわれやすいが、透析15年目でHIT症状が出たケースもあります。
【抗凝固薬はこちらの記事を参考にしてください】
③透析膜のγ(ガンマ)線滅菌
透析膜のガンマ線滅菌でアレルギー反応を起こし、透析直後に血圧低下するケースが非常にまれにあります。
これは第63回日本透析医学会学術集会でも発表されました。
膜素材を変えてもダメ、開始30分ECUMをしてもダメ、開始30分除水停止をしてもダメ、ヘパリンから低分子ヘパリンにしても改善がなかった。
しかし高圧蒸気滅菌のダイアライザに変更して改善が見られた、という内容です。
膜素材だけじゃなく、滅菌の種類も大切なんだなと思いました(相当まれなケースです)
参考:突然発症した透析困難症を高圧蒸気滅菌PS膜の使用で改善できた1症例
【透析膜に関する記事はこちらです】
④低栄養
低栄養(AlbやTPが低い人)の方は、Albの血管外から水を引き寄せる力(膠質浸透圧)が弱いため、除水をした際に血圧が下がりやすくなります。
また、低栄養だと血漿浸透圧の低下にも耐えられなくなり、血圧が下がってしまいます。
透析を開始すると老廃物などの浸透圧物質は積極的に排除されます。
すると浸透の原理で血管内の水分(血漿成分)は血管外に逃げていきます。
このときに血圧が下がってしまいます。
これを予防するためには、QBの見直しをする必要があります。
QBが多いと老廃物の排出も早くなるので、血圧が下がります(血圧低下のない人のQBはもちろん多い方が良いです)
透析開始1時間で老廃物は約6割抜けていきます。
【アルブミンに関する記事はコチラ】
⑤心疾患、貧血、糖尿病のトリプルパンチ
①糖尿病の既往があり、②大動脈弁等の弁膜症、そしてなおかつ③貧血のある人は、透析開始直後に著しい血圧をきたしやすいです。
まず糖尿病で自律神経がうまく働かず、血圧が下がる時に血管の拡張、収縮ができないため、血圧が下がりやすくなります。
そして貧血による酸素供給の乏しい状態と、大動脈弁膜症による心拍出量の低下によって、血圧が下がる時の代償機能が働きません。
なので血圧が下がってしまいます。
このトリプルパンチは既往歴や検査値を見てみてください。
心疾患があるかどうかは大事です。
CABG(冠動脈バイパス)をしている患者さんは大体血圧が低いです。
⑥酢酸不耐症
酢酸不耐症とは、血中酢酸濃度の上昇により透析中の血圧低下、頭痛、嘔気、発熱などの症状がでること
通常の透析では酢酸が含まれています。
酢酸は体内に入ると悪影響が出ることもあります。
悪影響を以下に示します。
- 末梢血管拡張作用や心機能抑制➡血圧低下
- 肝機能障害低下では酢酸が代謝しきれず酢酸不耐症を呈する(特に高齢者や糖尿病患者)
- 炎症性サイトカインを誘導する
酢酸不耐症のある患者では、血圧低下が起きてしまいます。
このような患者には、無酢酸透析(AFBF)(カーボスタ)を施行します。
無酢酸透析は血圧低下などによる透析困難症に対し効果があり、血行動態への影響が少ないと言われています。
また、心機能抑制もなく、不均衡症候群が起きにくいとされています。
⑦迷走神経反射
迷走神経反射が起き、強い痛みやストレスが誘因となって心拍数が低下したり、血圧が低下したりしてしまいます。
透析では、穿刺による痛みが強かったり、本人が極度のストレスと感じている場合、血管迷走神経反射が起こり、透析開始時に血圧が下がるケースがあります。
対策としては、痛みの緩和に努めることです。
リドカインテープやエムラクリームなどを使用して、できるだけ痛みがないように工夫します。
原因不明の失神の大半が迷走神経反射によるものと言われています。
7年透析に従事してきて一人だけ見たことがあります。
患者さんのほとんどが穿刺によるストレスを感じています。
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