はじめに
低血圧は、最も発生頻度の高い合併症です。
また透析中の過度な血圧低下は生命予後悪化因子です。
今回は透析中に血圧が下がる原因5つまとめました。
血圧低下を起こしやすい患者の特徴と症状
血圧低下を起こしやすい患者の特徴や、自覚症状はどんなものがあるか、下記にまとめます。
《血圧低下を起こしやすい患者の特徴》
- 高齢
- 糖尿病
- 低栄養
- 貧血
- 心機能障害
《症状》
- あくび
- 吐き気・嘔吐
- 頭痛・動悸
- 冷や汗
特に透析中では生あくびや冷や汗が多くみられます。
透析低血圧ってなに?
透析中に血圧が低下することを「透析低血圧(IDH:intradialytic hypotension)」と言います。
透析低血圧の定義を以下に記載します(K/DOQIガイドライン)
透析中に収縮期血圧が20mmHg以上あるいは、症状を伴って平均血圧が10mmHg以上低下する場合
と定義されていますが、実際現場で働いていると、20mmHg以上の血圧低下はざらにあるので、この定義はどうなんでしょうか(;^ω^)
実際に、この定義に根拠はないみたいです。
透析中の顕著な血圧低下は、臓器への血液還流が急激に低下して、心虚血や脳血流の減少を招きます。
透析中に血圧が下がる原因5つ
透析低血圧の原因は大まかにいうと5つです。
- ドライウェイトが低すぎる
- 除水量が多すぎる(一番多い)
- 低アルブミン血症(栄養障害)
- 貧血
- 降圧薬の影響
では1つずつ解説していきます。
①ドライウェイトが低すぎる
ドライウェイトの設定が低すぎると、透析の後半に循環血液量が著しく減少するので、血圧が下がります。
透析終了前に毎回のように低血圧になったり、下肢つり(筋痙攣)が起きたり、声がかれる、強い倦怠感などの症状が起きたりします。
適切なドライウェイトを設定することが大事です。
【ドライウェイトはコチラの記事を参考にしてください】
②除水量が多すぎる
低血圧になる原因として最も多いのは、除水量が多いことです。
除水量が多いと「プラズマリフィリング」が、除水量に追い付かず血圧が下がります。
プラズマリフィリングとは、血管外(細胞外液)から血管内に水分が移動する現象のことです。
除水速度は15mL/kg/hr以下にとどめるのが理想なので、体重50kgの人だったら1時間当たりの除水量が0.75L/h以下になるようにします。
除水量が多すぎることの原因は「体重の増え」です。
体重の増えが大きいと、その分除水量が多くなります。
体重の増加は中1日で「3%」、中2日で「4~6%」を守るように心がけることが大事です!
体重が50kgの人は、中1日で「1.5kg」、中2日で「2.5kg」以上増えてこないように指導することが大切です。
【プラズマリフィリングはコチラの記事!】
③低アルブミン血症(栄養障害)
栄養不良になり、※1低アルブミン血症になると、血管の膠質浸透圧が低値となり、※2プラズマリフィリングレートが減少します。
すると、血管内への体液移動が不十分になり(血管内への体液移動が除水に追い付かない)、血圧低下を招きます。
※1. アルブミン値が2.5g/dL未満で、高度の栄養障害です。
(病態栄養認定管理栄養士のための病態栄養ガイドブック,2016)
※2. プラズマリフィリングレートとは、プラズマリフィリングの速さのことです。
低栄養による、低アルブミン血症は死亡リスクを増加させます。
やみくもに体重制限をするのではなく、塩分と水分は制限しても、栄養は十分に摂取するように指導することが大切です。
【アルブミンについてはコチラの記事で解説しています】
④貧血
貧血と血圧は、直接的に作用するのではなく、間接的に作用します。
腎不全になると、造血を促すエリスロポエチンの産生が低下するので、腎性貧血を起こします。
そして、貧血と血圧は間接的に作用します。
貧血になると、全身の酸素の運搬が減少します。
すると、酸素の透過性を良くするために血管を拡張します。
こうすることで、酸素を効率よく取り込めるようにします。
結果、血管が拡張するので血圧が低下します。
⑤ 降圧薬の影響
降圧薬を飲んで透析をした場合、降圧薬の効果が透析中も持続している場合があります。
スタッフやドクターに内服のタイミングなどを相談してみましょう。
プラズマリフィリングってなに?
プラズマリフィリングとは、血管外(細胞外液)から血管内に水分が移動する現象のことです。
透析で除水をするときは、血管の血液から水をひきます。(詳しくは、血液の中の血漿成分を抜く)
すると循環血液量は減少しますが、その減少した分を補うために、血管の外にある細胞外液(間質液)が血管内に移動します。
この、水分の移動減少を「プラズマリフィリング」といいます。
体重65kgの患者さんだと、血液量はおよそ5,000mlです。
除水が2,500mlだと、血液量の半分がなくなってしまいますよね。
しかし実際は、プラズマリフィリングが起きているので、水分がきちんと血管内に移動して保持されているので、循環血液量は保たれています。
- プラズマ=血漿
- リフィリング=再充填または補充
- プラズマリフィリング=血漿の補充(除水は血液中の血漿成分を抜くので)
- プラズマリフィリングレート=プラズマリフィリング(水分移動)の速さ
体重増加が多く除水が多い人で、後半に血圧が下がる人は、この「プラズマリフィリング」が間に合ってない状況です。
除水のスピードが、プラズマリフィリングレートを上回ってしまうので、血圧が下がります。
例えば、、、除水が0.5L/hでかかっていて、プラズマリフィリングレートが0.5L/hだと血圧は維持できます。
しかし、除水が0.5L/hにも関わらず、プラズマリフィリングレートが0.2L/hだと、血液循環量は少なくなってしまうので、血圧が下がります。
【透析と高血圧の記事はコチラ!】
【他の合併症はコチラ】
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