はじめに
ダイアライザの膜の種類は大きく分けると2種類あり、セルロース系膜と合成高分子膜に分かれます。
そして合成高分子膜は膜素材別に5種類に分かれます。
それぞれの特徴について、現場の感想も踏まえてまとめました。
合成高分子膜6種類
- ポリスルホン(PS)
- ポリエーテルスルホン(PES)
- ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)
- エチレンビニルアルコール共重合体(EVAL)
- ポリメチルメタクリレート(PMMA)
- ポリアクリルニトリル共重合体(PAN)(AN69膜)
合成高分子膜はβ2-MGなど、低分子量タンパクの除去に優れています。
合成高分子とは、石油から得られる低分子化合物(単量体)を重合させ、高分子にして紡糸することで、繊維構造を形成させたものです。
①ポリスルホン(PS)
最も多く使われている膜で、種類も一番あります。
PVPってなに?
PVP:ポリビニルピロリドン
PVPとは親水化剤のことです。
PS膜やPES膜などは、もともと水をはじく性質(疎水性)があります。
そのため、親水化剤のPVPを膜に添加させて透析をしないと、水の通り(透水性)が悪くなってしまいます。
PVPが含まれていることによって生体適合性が良く、残血も少ないといったことに寄与しています
実際現場で使用していると、PS膜・PES膜は生体適合性はほぼ変わらないです。(PES膜の方が若干いいような)
なのでその患者さんに合うかどうか、個人差です。
目に見える残血は少ないという意味です。
実際白血球とか血小板とかを経時的にモニタリングすると、PVPの含まれているダイアライザーの方が優れているのかなとは思います。(個人の見解です)
【PVPについて詳しい記事はコチラです】
PVPによる生体変化
PS膜ダイアライザを使用した透析患者で、以下のような透析中のアレルギー反応が出現する事例が報告されています。
- 血圧低下
- 血小板減少
- 発熱
- 頭痛
その原因として、PS膜に親水化剤として配合されているPVPの溶出が影響しています。
患者さんの個人の体質などが関係しています。
②ポリエーテルスルホン(PES)
- PS膜によく似た特性だが、PS膜に比べて血小板変動と補体活性化が少ない
- Alb漏出が少ないシャープな膜
- 現場ではペス膜って呼ばれてる
- ニプロのPESシリーズが代表
- PES膜もPS膜同様にPVPが含まれていますが、PS膜よりは少ないです
「PES膜はPS膜に比べてPVP含有量は少ないのに、PS膜と同等の生体適合性を示す」と言われています。
PES膜はPS膜と似た化学構造を有する疎水性の膜素材です。
そのため、親水性ポリマーとしてPVPが使用されています。
しかし、PES膜はPS膜に比べると親水性が高いためPVP含有量は少ないです。
にも関わらずPS膜と同等の生体適合性を示します。
【ニプロPESシリーズの性能表はコチラ】
③ポリエステル系ポリマーアロイ(PEPA)
- 小分子物質から低分子タンパク・β2-MGの除去能に優れていて、Alb漏出が少ない
- 現場ではぺパ膜って呼ばれてる
- 日機装が販売
少し栄養状態が悪めだけど、BUNなどが高めの人に使用するのも良いです。
PEPA膜だけ唯一使用したことがないんです!どんな感じか教えてほしいです。
➡PEPA膜についてフォロワーさんから、特徴を教えていただきました!
twitterでのやり取りを載せます。(ご本人許可済み)
PEPA膜は、アルブミンが抜けずらいので、高齢な栄養状態イマイチといった感じの人向けなのですね!
「りぼんさん」ありがとうございました!(^^)
④エチレンビニルアルコール共重合体(EVAL)
EVAL膜は現在販売中止されています。
- 抗血栓性に優れる
- 拡散・分画特性に優れ、血漿分離機にも利用できる
- 一過性の白血球減少も軽度
- 現場では「エバール」って呼んでます
- 川澄のkfシリーズが代表です
- 無へパの際に使用する例もある
- 現在販売はされていません
EVAL膜は抗血栓性に優れているので、出血傾向があり、抗凝固剤を使用したくないという際に用いられる例もありました。
「抗血栓性に優れていて、マイルドなEVAL膜を状態の悪い患者さんに使用していこう!」と学会が計画を立てていたのですが、その途中で死亡率が上がった。
という話を聞きました。
本当かどうかはわからないので、あくまでそういった話が合ったかも、ということだけで、とどめておいてください。
私自身EVAL膜は無へパで使用可能だし、非常に素晴らしい膜だとは思っいました。
しかし、UFRが低いということも関係があるのか、残血は多かったように感じました。
⑤ポリメチルメタクリレート(PMMA)
- 生体適合性に優れ、β2-MGと炎症性サイトカインの吸着除去ができる
- 掻痒症の患者さんに使用されることも
- UFRが低いので除水量が多すぎるとTMP上昇が見られる
- 東レのNFシリーズで販売
PMMAはβ2-MGと炎症性サイトカインも吸着する(炎症性サイトカイン忘れがちですよね)
PMMAは炎症性サイトカインの吸着があることから、炎症の強い患者さんにも適応しやすいといった特徴があります。
炎症性サイトカインは分子量が大きいため、濾過によって除去が可能です。
しかし、炎症が強い人は同時に栄養状態も悪い人が多いです。
なので濾過を多くかけると、体に必要なアルブミンなどのタンパク質も除去される可能性があります。
なのでPMMAみたいに、吸着の原理で炎症性サイトカインを除去することによって、栄養状態を損なわずに除去することが可能です。
⑥ポリアクリルニトリル共重合体(PAN)(AN69)
- 一過性の白血球減少、補体活性化が少なく生体適合性に優れている
- 現在販売されているホスパルやセプザイリスはAN69膜(PAN膜の中にAN69膜がある)
- ACE阻害薬を使用すると血圧低下を招くので使用禁忌(後で説明)
- ナファモスタット(フサンやナオタミン)は吸着されるので、使用はNG!
- 現場ではパン膜って呼ばれてる
- 唯一の積層型ダイアライザー
- 販売はバクスター社のホスパルだけ
手動でプライミングする場合、プライミングや開始時に特別な手技が必要ですので、しっかり知識を持ち合わせておく必要があります!
AN69膜の大きな特徴は2つ
- 高い親水性に由来する良好な生体適合性
- 陰性荷電
生体適合性がすごくいいです。
つまりダイアライザを使って、アレルギー反応が合ったり、残血が多かったり、体に合わないといった人にとっておきです。
また、陰性荷電による体への影響で以下のような方に適応されます。
- 不安定な循環動態
- 慢性炎症
- 高齢で緩徐な透析
- 下肢循環が悪い人
AN69膜の陰性荷電については以下の記事で解説しています。
本当に近年、注目を浴びているダイアライザです。
AN69膜は1969年に開発された透析膜で、積層型という独自の構造を持っています。
AN69膜の69は1969年に発売された数字からとってるよ!
積層型についての詳しい説明はコチラの記事でご確認ください。
AN69膜とACE阻害薬は禁忌
AN69膜は陰性荷電が強く、ブラジキニンの産生を刺激します。
ACE阻害薬はプラジキニンの産生を阻害するキニナーゼⅡを阻害します。
結果的にプラジキニンがキニナーゼⅡによって阻害されないので、血中にプラジキニン濃度が増大します。
プラジキニンは一酸化窒素(NO)を介した血管拡張・透過性亢進が生じるので、血圧が低下し、アナフィラキシーの症状が出ます。
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