はじめに
ダイアライザにはビタミンEが固定化されている、ビタミンE固定化膜があります。
- なぜビタミンEを固定化するのか?
- 固定化するとどうなるのか?
- 臨床効果など
これらを解説していきます。
またビタミンE固定化膜を理解するには「活性酸素」「フリーラジカル」のこの2つの理解が非常に大事となってきます。
ビタミンE固定化膜開発の背景
最初に用語の解説をしておきます。
- 抗酸化酵素:活性酸素とフリーラジカルを消去してくれる酵素のこと(良いヤツ)
- 過酸化脂質:コレステロールや中性脂肪といった脂質が、活性酸素によって酸化されたもの(悪いヤツ)
活性酸素とフリーラジカルは後で説明をします。
「なぜビタミンEを固定化したのか?」
結論から言えば、「活性酸素」「フリーラジカル」の消去をするためです。
(活性酸素・フリーラジカルはのちに説明します)
生体内では恒常的に活性酸素・フリーラジカルが発生しています。
一方、生体の各組織には活性酸素・フリーラジカルを消去する酵素(抗酸化酵素)が存在します。
この抗酸化酵素が、活性酸素やフリーラジカルの発生を消去してくれています。
しかし、全ての活性酸素とフリーラジカルが、抗酸化酵素によって消去されるわけではありません。
一部の活性酸素とフリーラジカルは抗酸化酵素による消去から逃れて、次々と酸化反応を繰り返しています。
そして、過酸化脂質を生成し、細胞膜に障害を起こしています。
透析患者では、透析中に血液がダイアライザと接触することによっても、活性酸素・フリーラジカルが発生しています。
その結果、過酸化脂質の産生が増加し、細胞膜に障害を起こしています。
つまり、体内の酸化ストレス過剰に産生される状態です。
ビタミンE・ビタミンC・βカロチン・グルタチオンなどは、活性酸素・フリーラジカルを消去し、過酸化脂質の生成を抑制します。
透析患者で、活性酸素・フリーラジカルの消去を促進するために、PS膜にビタミンEを固定化した膜(VPS-HA・VPS-VA:旭化成)が開発されました。
活性酸素ってなに?
活性酸素とは「他の物質を酸化させる力が非常に強い酸素」のことです
私たちは呼吸によって酸素を取り入れていますが、そのうちの約2%が活性酸素になります。
活性酸素は殺菌力が強いので、体内の細菌やウイルスを撃退してくれます。
しかし、活性酸素が増えすぎると、正常な細胞や遺伝子を攻撃(酸化)してしまいます。
フリーラジカルってなに?
フリーラジカルは、化学の授業を思い出してください。
フリーラジカルとは、「不対電子をもつ原子や分子」のこといいます。
どういうことかというと…
原子の中心には原子核があり、原子核の周囲には電子が2個ずつ、一定の軌道で収容されています(下図)

しかし、電子が奇数しかない場合、一番外側の軌道には1個の電子しか収容されません。(下図)

このような不対電子をもつ原子や分子を「フリーラジカル」といいます
フリーラジカルは電子を奪って安定化する
フリーラジカルの性質を以下に示します。
フリーラジカルは不安定な状態にあるので、他から電子を1個奪うか、あるいは電子を1個与えて、安定化しようとします。

フリーラジカルは非常に反応性が強く、細胞膜や組織を構成する脂質やタンパク質を攻撃するために、様々な病気や老化の原因となります。
この電子を他から奪うことを「酸化する」といいます
フリーラジカルによる細胞膜の障害
電子を奪われ、不対電子をもった物質は、フリーラジカルになります。
これが酸化反応の開始です。
そして、フリーラジカルによる細胞膜の破壊が始まります。
フリーラジカルによる細胞膜の破壊は以下のようになります。
- 赤血球の膜破壊 → 貧血
- 肝細胞破壊 → 肝障害
- 胃粘膜破壊 → 胃潰瘍
ビタミンE固定化膜の効果
ビタミンE固定化膜がもたらす良い効果は次の通りです。
- 貧血改善(一番有力)
- 末梢循環改善
- 抗酸化作用
- 血圧安定化
- 栄養状態の改善
これらが挙げられ、長期予後の改善につながると言われています。
しかし、まだ研究が少ない、データが少ないのか、確かな情報が得られていません( ゚Д゚)
この中で一番有力で、データが確かなものであった「貧血改善」だけ紹介します。
ビタミンE固定化膜と貧血
ビタミンEの貧血に対する効果は以下の通りに作用します。
- 赤血球膜の安定化
- 赤血球寿命の延長
これらが貧血の改善になります。
ビタミンE固定化膜の長期使用で、ESA投与量が減少した報告があります。
透析患者での酸化ストレスによる貧血に対して、ビタミンEはこれら一連の酸化連鎖反応を止めます。
これが、赤血球膜の安定化、赤血球寿命を延長すると考えられます。
透析患者は赤血球寿命が短縮されます。
透析患者は酸化ストレスにより、赤血球膜の脂質過酸化が亢進する
↓
赤血球膜が不安定になる(脆弱化)
↓
赤血球の粘土や形態異常が生じる(溶血にもつながる)
↓
赤血球寿命短縮
といった流れです。
さらに、ビタミンE固定化膜は赤血球寿命を延長してくれます。
ビタミンEは細胞膜脂質の酸化連鎖反応を止めることによって、赤血球膜が安定します。
これが、赤血球寿命の延長に繋がります。
ちょっと難しいですが、下記のような効果が生まれます。
- 赤血球形態異常の改善による赤血球粒度分布幅の低下
- 溶血の改善による間接ビリルビンの減少
- 赤血球寿命の延長による赤血球内クレアチン濃度の低下
ビタミンE固定化膜の短期的な臨床効果
- 補体活性の抑制
- IL-1βの産生減少
- 白血球からの顆粒球エラスターゼの放出抑制
- 血液凝固となる原因の接触相の活性化抑制➡抗血栓性
- 活性酸素の産生減少
- 赤血球膜を構成する脂質の過酸化を抑制
- 酸化LDLの産生抑制
炎症の抑制がされているようですね。
VPSシリーズの紹介
ビタミンE固定化膜は、旭化成さんだけで膜は2つあります。
- VPS-HA
- VPS-VA

機能区分Ⅰa型の「VPS-HA」のみが販売されていたため、β2-MGを積極的に除去する治療を望む患者さんに対して、使用できませんでした。
更なる除去性能の向上のため「VPS-VA」機能区分Ⅱa型が開発
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