はじめに
オンラインHDFは現在透析治療において主流になっている治療方法で、ほとんどの施設が導入していると思います。
今回は、オンラインHDFっていったいどんな治療なのか?
臨床効果や原理や適応まで、基礎知識を解説します。
少し長いですが、最後まで見ていただけると嬉しいです。
オンラインHDFってなに?
オンラインHDF:on-line hemodiafiltration:血液透析濾過
オンラインHDFは血液透析濾過といいます。
HDFでは濾過を行った分補充液を必要とします。
オフラインではバックに入った補充液を使用するため、補充液が少なく濾過をかける量が少なくなってしまします。
一方、オンラインの場合は、透析液がそのまま補充液として使用されるの補充液量(置換量といいます)を多く使用することができます。
なので、オンラインHDFはより多くの濾過をすることができ、より多くの老廃物の除去を行うことができます。
オンラインをするにあたっては、透析液を補充液として使用するので、透析液がそのまま血管内に入ります。
そのため、透析液の水質管理を徹底する必要があります。
透析液に含まれるET(エンドトキシン)や生菌が基準値以下になるように厳重な透析液清浄化が必要となります。
HDをするときの透析膜をダイアライザと言い、HDFをするときの透析膜をヘモダイアフィルタと言います。
オンラインHDFには前希釈(pre)と後希釈(post)がありますので、それも後で解説しています。
【オンラインHDFとオフラインHDFの違いはコチラ】
on-lineHDFの臨床効果6つ
- 血圧の安定
- 貧血の改善
- 痒み、イライラ感の減少
- 食欲の改善
- 合併症の予防
- 尿毒性心膜炎の予防
オンラインHDFは前希釈も後希釈も臨床効果は同じと言われています。
(1)血圧の安定
on-lineHDFは透析中の血圧が下がりにくいといった報告があり、透析中の血圧維持を目的に行うことができます。
これにはドナン効果という力が働いています。
【ドナン効果はコチラの記事で解説しています】
普段の血圧も安定して、血圧の薬の減量に繋がります。
(2)貧血の改善
透析をすると貧血傾向になりますが、改善することがあります。
これは超純粋透析液を使用することによって、炎症を最低限にとどめることができ、低Hbを改善する効果があります。
(3)痒み、イライラ感の減少
α1-MGの20~30%以上の除去により症状が減少するといった結果が報告されています。
(4)食欲の改善
老廃物の除去が優れているため、体調がよくなり食欲が改善することがあります。
食欲を抑制する物質(レプチン)の除去を促進します。
レプチンの分子量は16,000です。
(5)合併症の予防
合併症の原因とされるβ2-MGやα1-MGなどの比較的大きい分子を取り除き、合併症を予防します。
長期透析患者さんで見られる透析アミロイドーシスの予防もします。
(6)尿毒性心膜炎の予防
透析不足によって、心臓の内臓層壁側層に炎症が起きます。
これを予防します。
これらの臨床効果で、透析患者の症状改善や、生命予後の改善につながります。
on-lineHDFのデメリット2つ
- アルブミン漏出に気を付ける
- 生菌検査が不十分か?
デメリットはほぼほぼないんですけど、挙げるとしたら2つ
《①アルブミン漏出に気を付ける》
濾過を多くかけて大きい分子を取り除くので、体に必要なアルブミンも抜けてしまいます。
体内で合成されるAlb量よりも、HDFによって除去されるアルブミンの方が多ければ栄養障害になります。
α1-MGを多く抜こうとすると、アルブミンもぬけてしまう!
適切な補液量の設定が大切。
《②生菌検査が不十分か?》
【☟Twitterのフォロワーさんからデメリットについて貴重なご意見いただきました!☟】
つまり、今現在している低栄養培地法では、全ての菌が検出できていない。
なので、不十分なんじゃないかということです。
実際水質基準をクリアしていれば施行可能ですが、厳密に言ったらということでしょうね。
前希釈(pre)の特徴3つ
前希釈というのはヘモダイアフィルタを基準として、ヘモダイアフィルタよりも前で希釈(補液)を行うので前希釈と言います。
Aチャンバから投与されます。
日本のon-lineHDFで90~95%が前希釈です。
《前希釈の特徴3つ》
- 濾過速度に制限がなく、大量置換が可能
- 前希釈は後希釈よりも小分子物質の除去が劣る
- 濾過量に比例して、低分子量タンパク領域の尿毒素の除去効率は高くなる
1つずつ解説していきます。
①濾過速度に制限がなく、大量置換が可能
前希釈はヘモダイアフィルタの前で希釈するので、膜に対する負担が後希釈よりも少なく、※QBの制限もありません。
なので大量置換が可能です。
大体6~15L/hの置換量です。
多いとこだと15L以上/hしている施設もあります。
QBの制限はないとしているが、基本はQBがQSを超えるように設定します。
QSが200ml/minだったら、QBはそれ以上に設定しないと、拡散効率が悪くなります。
・QB:1分間当たりの血流量
・QS:1分間当たりの補液量
②前希釈は後希釈よりも小分子物質の除去が劣る
前希釈は後希釈よりも小分子物質の除去が劣ると大体の記事で書いています。
しかし研究によっては、前希釈も後希釈も小分子物質の除去に有意差はほぼ見られないという結果もあります。
なので、そういうときもあるくらいで覚えておいていいと思います。
なぜ、前希釈は後希釈よりも小分子物質の除去が劣るのか?
- ヘモダイアフィルタに入る前に血液が薄まる
- ヘモダイアフィルタを流れる透析液流量が低くなる(設定を合わせることで改善ができる)
まず①のヘモダイアフィルタに入る血液が薄まるというのを説明します。
前希釈はヘモダイアフィルタの前で補液しているので、中空糸を通る血液が薄まり、拡散能が低下します。
それによって小分子物質の除去が劣ります。
次に②のヘモダイアフィルタを流れる透析液流量が低くなるというのを説明します。
例えば、透析液流量:500ml/min、補液流量:200ml/min の設定で前希釈を実施すると、ヘモダイアフィルタを流れる透析液流量は300ml/minになります。
なぜかというと、膜に入るまでに補液量分は盗まれるからです。(下図)
透析液流量(ヘモダイアフィルタを流れる流量)は基本500ml/minに設定が必要であり、400~500は流れていないと物質除去が不十分になります。
前希釈では補液流量が多いためヘモダイアフィルタを流れる透析液流量は少なくなります。
なので、総透析液流量を多く(前希釈なら600~700ml/min)設定してあげることが必須です。
これら2つが前希釈の拡散能の低下につながっているので、小分子物質の除去が劣っているとよく言われます。(理論上の話)
しかし、前述したとおり研究では、前希釈と後希釈の小分子物質の除去に有意差はほぼないというものもあります。
①はどうしようもないとしても、②に関しては、透析液流量を700程度に設定すれば、補液流量が200ml/minであったとしても、ヘモダイアフィルタの中は500流れています。
よって②は透析流量を増やすことによって対策できます。
前希釈は大量の透析液を使用するので、セントラルの供給量が追いつくかちゃんと確認してね!
③濾過量に比例して、低分子量タンパク領域の尿毒素の除去効率は高くなる
補液量を多くすると濾過量も増えるので、その分除去量がUPします。
後希釈(post)の特徴3つ
後希釈というのはヘモダイアフィルタを基準として、ヘモダイアフィルタよりも後で希釈(補液)を行うので後希釈と言います。
Vチャンバから投与されます。
日本のon-lineHDFで5~10%が後希釈です。
《後希釈の特徴3つ》
- 拡散による小分子量物質除去効率は前希釈よりも優れる
- 濾過量は血流量の25%程度が上限(超大事)
- 前希釈よりも少ない置換量で低分子量タンパク領域の除去が可能
特に2番はめちゃめちゃ大事です。
①拡散による小分子量物質除去効率は前希釈よりも優れる
後希釈は膜の後で希釈をするので、前希釈とは違い薄まった血液が膜に入ることはありません。
なので、前希釈よりも拡散効率が良くなるといった考えがあります。
後希釈は前希釈よりも補液量が少ないので、透析流量は500~550ml/min程度の設定が良いと思います。
②濾過量は血流量の25%程度が上限(超大事)
ここはすごく大事なところで、別の記事でも解説しています↓↓
濾過量は血流量の25%が上限を言い換えると、後希釈の場合の血液流量は、総濾過量(補液量+除水量)の4倍はないといけませんよってことです。
後希釈では、ヘモダイアフィルタ内で血液濃縮、膜面でのタンパク分画が生じるので、濾過量に限界があります。
膜でろ過をしてから希釈をしているので、前希釈みたいに希釈液が膜を通過しないから、濃縮しやすいということです。
なので、総濾過量の4倍の血流量を回さないとヘモダイアフィルタ内の血液が固まってしまいます。
〔例〕
補液量:50ml/min、除水量:10ml/minだとすると、総濾過量は60ml/minになります。(2つを足す)
血流量はこの60ml/minの4倍なので、240は必要です。
血流量が240を下回ると血液が固まるおそれや、アルブミンリークに繋がります。
臨床で働いていると、3.5~4倍あれば、血液が固まったりアルブミンリークが起こるようなTMP上昇も起きません(その日の条件にもよりますが)。
前希釈には後希釈みたいに総濾過量と血液流量の関係に制限はありません。(基本はQBがQSを超える用には設定するが)
なぜかというと前希釈はヘモダイアフィルタの前で希釈してから除水するのに対し、後希釈は除水してからヘモダイアフィルタの後のVチャンバで希釈するからです。
希釈する前に除水をすると、ヘモダイアフィルター内の血液が濃くなりドロドロになり固まってしまいます。
なので血流量を早く回して血液凝固を防ぎます。
一方前希釈はヘモダイアフィルターの前で希釈するので、希釈された(薄まった)血液がヘモダイアフィルタ内を通ります
③前希釈よりも少ない置換量で低分子量タンパク領域の除去が可能
後希釈では少ない補液量で濾過圧を加えることができます。
後希釈の置換液量は前希釈の4分の1で同等の効果が得られるといわれています
前希釈と後希釈のフロー図(水の流れ)
前希釈と後希釈の流れの説明です。
これがわかれば、フローは完璧ですね!
オンラインHDFの適応
- 合併症予防(一番多い)
- 透析アミロイド症の予防
- 透析低血圧症(透析困難症)
- 皮膚掻痒症(かゆみ)
だいたいこの4つが、on-lineHDFにする際の導入理由です。
その他は…
- 透析アミロイド症以外の骨関節症状
- 睡眠障害
- イライラ感
- 低栄養 など
除去される分子量の分布図
on-lineHDFでは赤く囲んだ範囲の積極的な除去が目標とされます。
on-lineHDFはアルブミンが十分にある患者さんに向いています。
個人的にはアルブミンが3.2以上あることがオンラインの条件。
現場でやっててもそう思いますし、文献に書いてましたね。
ただ、3.2未満でもやることもありますが…
なぜオンラインHDFは血圧低下の予防になるのか?ドナン効果
【ドナン効果の詳しい解説はコチラ!】
on-lineHDFは中分子領域のβ2-MGやα1-MGなどの老廃物を取り除くことで、合併症や透析アミロイドの予防になることはわかりました。
しかし、なぜ血圧低下の予防になるのか?
on-lineHDFは補液した分も除水するので、当然体液のinとoutのバランスがプラスになるわけではありません。
なのになぜ透析中の血圧低下予防になるのでしょうか?
on-lineHDFが血圧低下予防になる説明を記載しているブログは、おそらく僕だけだと思います。(たぶん、、、ガクブル、豪語お許しを)
では説明します!
【なぜon-lineHDFは血圧低下の予防になるのか?】
on-lineHDFは、大量の等張性置換液が直接血液中に補充されるので、血漿浸透圧の維持効果が大きいです。
除水を0と考えると、HDFでは補充される置換液と同量の除水がされるので、体内へのナトリウム負荷(ナトリウムによる細胞外液の増加)は一見ないように思われます。
しかし、実際には除水されるナトリウム濃度(血漿水)は、アルブミンの影響により血液中のナトリウム濃度よりも低くなります(これをドナン効果といいます)。
なぜかというと、アルブミンはマイナスに荷電していて、ナトリウムはプラスに荷電しています。
血液中ではこれら2つはひきつけあうからです。
それなのに、血液中のナトリウム上昇がみられないのは間質や細胞内から血管へ水分が自由移動(プラズマリフィリング)するからです。
これは浸透圧によるプラズマリフィリング促進です。
したがってon-lineHDFでは除水量を増加しても、プラズマリフィリングの促進により循環血漿量が維持されやすくなります。
ドナン効果は前希釈でも後希釈でも同じように行われます。
しかしこれはあくまで、理想論と言えます。
循環血液量が多くなっているわけではないので、絶対ではないですよね。
なんか最近ちらっと見た文献では、後希釈の方が血圧維持に有用とか書いてました。
詳しくは見てませんけど…
詳しくはコチラで解説しています。
日本は前希釈が主流 理由2つ
- 日本は比較的、タンパク透過性の高いHDFフィルタの使用が多いこと
- 日本人は自己血管内シャントが多く、シャント血流量が少ない
海外では後希釈が多く用いられていますが、日本では前希釈が主流です。
①日本は比較的、タンパク透過性の高いHDFフィルタの使用が多いこと
タンパク透過性の高いHDFフィルタで後希釈をした場合、タンパク漏出量のコントロールが難しいです。
前希釈よりも後希釈のほうがタンパクの漏出が多いので、体に必要なAlbも多く抜けてしまう可能性があります。
②日本人は自己血管内シャントが多く、シャント血流量が少ない
後希釈は前希釈よりも多くの血流量を必要とします。
日本人は海外の人と比べてシャント血流量が少ないので、後希釈には向いていません。
と、以上でon-lineHDFの説明は終わります!
【オンラインHDFについての最新情報はコチラ】
【IHDFについて知りたい方はコチラ!】
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コメント
とてもきれいにまとめられていましたが疑問があったので質問させていただきます。
『(3)かゆみ、イライラ感の減少
老廃物の除去(α1-MG)により症状が減少するといった結果が報告されています。』
上記の文章についてですが
α1-MG が、直接的にかゆみ、イライラなど体に悪さをするわけではないですよね。α1-MGは、分子量3万くらいなので、除去率を測定する目安として使われているだけではないでしょうか?
確かにα1-MGの高値は、腎障害や肝障害を引き起こします。しかし、実際のところα1-MGの測定は、α1-MGの分子量に近い物質、で未知の物質が体に悪さをしている可能性がある。ということで、どの程度の分子量の物質が何%除去されているかという目安ではないでしょうか?
ダイアライザーの添付文章でいうところのビタミンB12など、そういった感じではないでしょうか?
記事を読んでいただいてありがとうございますm(__)m
α1-MGが直接作用なのか、分子量30,000付近の物質が作用しているのか、実際のところはあまり分かりませんが、文献などではα1-MGの除去率を上げることとよく書かれています。
もしかしたらおっしゃる通り、そこら辺の分子量という意味で、α1-MGが測定しやすいから(除去率を出しやすいから)という理由での記載なのかもしれませんが(*_*;
α1-MGはIgAとも共有があり、IgAはアレルギーにも関与しているので、α1-MGがかゆみに直接作用しているんじゃないかなと私は考えています。