はじめに
末期腎不全患者の約8割が高血圧を認め、降圧薬を服用している現状があります。
なぜ透析患者さんは高血圧になりやすいのか?
さらに透析中の高血圧はなぜ起こるのか?説明していきます。
高血圧の原因
透析患者の高血圧は以下のような原因があります。
- 体液量の増加
- 不適切なDWの設定
- 交感神経活性
- レニン・アンジオテンシン系(RAS)の亢進
- 動脈硬化
では一つずつ説明していきます。
体液量の増加
ここはかなり基礎的な所で、周知の事実だとは思うのでサラッと流していきます。
体液量増加 → 循環血液量増加 → 心拍出量増加 → 血圧上昇

透析患者は「除水」と、食塩や水分摂取による「体重増加」の繰り返しで、周期的に体液量が増減します
不適切なDWの設定
DWがあまいと(残し過ぎ)と循環血液量が多くなってしまい、高血圧につながります。
DWがあまい時は患者さんに以下のような症状があらわれます
- 体が重たい
- 顔や手足にむくみがある
- 血圧が高い
- うっ血性心不全
- 溢水による呼吸困難
DWの指標となる「CTR」や「hANP」「IVC」「PWI」「BV計」などを用いて、DWの適正化を図りましょう。
またDWを正しく評価するためには以下の内容も総合的に加味するといいですよ。
- 観察・聞き取り:生活環境の変化や家庭状況、仕事の状況
- 降圧薬の調整:血圧や除水状況に合わせて調節する
- 栄養状態の把握:食の偏りや好きなものの把握
- 心疾患の有無:心疾患は血圧や除水に影響する
- 排便状態:便秘は血圧低下に影響する。内服の検討
- 急性疾:血圧に影響(血管透過性亢進など)
交感神経活性やRASの亢進
透析患者では、一般の方と比較して交感神経やRASが亢進していることがわかっています
RAS:レニン・アンジオテンシン系(RA系とも言われる)
交感神経やRAS亢進 → 血管収縮 → 末梢血管抵抗増大 → 血圧上昇
という流れです。
ではレニン・アンジオテンシン系(RASまたRA系)とは何か、下の図を見て見ましょう。

RAS「血液量の保持」と「血圧を上げる働き」により血圧を正常に保とうとする調節機構のことです。
アンジオテンシンⅡが副腎皮質と血管収縮に作用します。
副腎皮質に作用しアルドステロンを分泌します。
このアルドステロンはNaを血管内に再吸収させ、循環血液量の増加に関与します。
これにより血圧が上昇します。
特に自尿がある※患者さんは透析中にRASの亢進が起こりやすく、透析中の血圧が上がりやすいです
※ 透析患者さんの「自尿がある」というのははっきりした定義がありませんが、だいたい500mL/日が境界の値になってくるかなと思います。
動脈硬化
腎機能低下に伴って「血管石灰化」や「動脈硬化」が進行することがわかっている
血管石灰化・動脈硬化 → 末梢血管抵抗増大 → 血圧上昇
血管の石灰化には以下のような分類があります

- 内膜:高血糖や高血圧症
- 中膜:PとCaの骨代謝バランス
血管石灰化は、主に動脈の内膜と中膜に生じる非生理的な石灰化をいいます。
そして透析患者は中膜の石灰化が多いです(知っておこう!)

透析患者によくみられるもは中膜の石灰化です。
血管壁の中膜にCaが沈着して石灰化します。
中膜に存在する平滑筋細胞が腎不全や糖尿病などの影響で骨芽細胞様平滑筋細胞になります。
これは骨を作る細胞(骨芽細胞)と同じような性質を持ちます。
また透析患者の場合、血管石灰化抑制因子(ピロリン酸)も減少するため、石灰化がますます進行します。
透析中にどんどん血圧が上がる患者がいるのはなぜ?
- DWがあまい(体液過剰の状態)
- 残存腎機能がまだある患者
これらが要因です。
DWがあまい(体液過剰)と、昇圧ホルモン※の分泌やプラズマリフィリングの促進、これらの反応が起こりやすいと考えられています。
※ 昇圧ホルモン:レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAA系またはRAAS)やバソプレシン など
また残存腎機能がまだある患者では昇圧ホルモンが分泌されやすく、血圧が上昇する場合があります。
透析中は腎血流量が減る → 昇圧ホルモンが分泌される → 血圧が維持(または上昇)
腎機能が残っている患者では、この時に昇圧ホルモンが良く分泌されるのではないか?と考えられています。
すごく大事な透析中の除水時の反応や、RAA系についてはコチラで解説しています。
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