はじめに
バクスター社から販売されているホスパルH12は、AN69膜で、唯一の積層型ダイアライザです。
特殊な膜素材をもつホスパルには特徴がいくつもあります。
今回はそのホスパルの特徴を細かいところまで分かりやすく解説していきます!
ホスパルH12の特徴
- 炎症性サイトカインの吸着
- 優れた生体適合性
- 下肢循環の改善
- アルブミンやアミノ酸の損失が少ない
- ACE阻害薬との併用が禁忌
- ナファモスタットの吸着
- プライミングの煩雑性
- 透析膜の充填量が多い
1つずつ解説していきます。
陰性荷電がポイントとなってきます。
1.炎症性サイトカインの吸着
AN69膜は強い陰性荷電のバルク層を有するハイドロゲル膜です。
サイトカインとの吸着機序は、膜の陰性荷電(スルホネート基)とサイトカインのアミノ基(陽性荷電)とのイオン結合です。
陰性荷電と陽性荷電が吸着することによってサイトカインを除去しています。
AN69膜を学習する際は、この陰性荷電というのがポイントとなってきます。
後で紹介するナファモスタットの吸着や、ブラジキニンの産生にも陰性荷電が関わってきます。
サイトカインは分子量20,000~30,000Daです。
2.優れた生体適合性
AN69膜は炎症性サイトカインを吸着する機能もあるということから、生体適合性が優れています。
なので、AN69膜はこういった人に適応されます。
- 透析の残血が多い人
- 栄養障害のある人
- 炎症が強い人
- ダイアライザが体に合わない人
AN69膜のような陰性荷電膜は補体活性化を引き起こす原因にもなります。
しかし一方でそのメディエーターであるC3aやC5aや、活性化に必要なcomplement factorD(分子量24,000Da)を吸着します。
そのため、補体活性化を起点とした生体反応の一部を抑制することができます。
また、逆濾過が起きにくいという理由も生体適合性が優れているといった理由にもなります。
今市場に出回るほとんどの透析膜がHPM(ハイパフォーマンスメンブレン)膜です。
このHPM膜は逆濾過が起きてしまいます。
逆濾過とは、透析液が血液中に入ってしまう現象です。
すると、透析液中のエンドトキシンが体の中に入ってしまい、炎症性サイトカインの誘発や補体が活性化してしまいます。
エンドトキシンは完全に除去することは無理です。
基準値以内にしていても微量ではありますが、体の中に入ってしまいます。
ホスパルはこの逆濾過が起きにくいので、生体適合性の向上に寄与していると考えられます。
3.下肢循環の改善
ホスパルは血管拡張作用があるので、下肢の循環改善になると言われています。
なぜ血管拡張があるのかというと…
AN69膜使用
→ 血中キニン系の代謝が亢進
→ ブラジキニン産生
→ 血管拡張
→ 下肢の血行状態改善
→ 下肢の表面温度上昇
といった流れです。
血管拡張作用のあるブラジキニンは、陰性荷電膜によって産生されます。
血液が膜に接触するとブラジキニンが産生されるということです。
AN69膜は強い陰性荷電を有しています。
このブラジキニンは約10分ほどでピークに達して、その後すぐに消失します。
ブラジキニンはホスパルでの大事なキーワードなので、覚えておきましょう。
4.アルブミンやアミノ酸の損失が少ない
ホスパルはアルブミンやアミノ酸の損失が少ないというデータがあります。
なので、栄養障害に陥っている患者さんなどの使用にも重宝されます。
炎症が強い人は栄養障害のことが多いですし、炎症が強いと低アルブミンを引き起こすと言われています。
なのでホスパルの特徴でもある、炎症性サイトカインの吸着などは、このアルブミン損失が少ないともつながっています。
5.ACE阻害薬との併用が禁忌
AN69膜はACE阻害薬との併用は禁忌です。
なぜかというと、血圧が下がりショック症状を引き起こしてしまいます。
ホスパルは陰性荷電が強く、プラジキニンの産生を刺激します。
ACE阻害薬はプラジキニンの産生を阻害するキニナーゼⅡを阻害します。
結果的にプラジキニンがキニナーゼⅡによって阻害されないので、血中にプラジキニン濃度が増大します。
プラジキニンは一酸化窒素(NO)を介した血管拡張・透過性亢進が生じるので、血圧が低下し、アナフィラキシーの症状が出ます。
6.ナファモスタットの吸着
先ほどからしつこいですが、AN69膜は強い陰性荷電を有しています。
ナファモスタットは陽性荷電のため、膜に吸着されてしまいます。
すると、抗凝固作用が維持できず、回路凝固してしまうので、ナファモスタットの使用は避けるべきです。
7.プライミングの煩雑性
積層型ダイアライザは中空糸みたいにプライミングが容易ではありません。
煩雑で手の込んだプライミングが必要です。
なので、膜の構造や内部のイメージというのをしっかり学習し、プライミングをすることが大切です。
これらがイメージできていないと、プライミング不十分になってしまいます。
また、プライミングだけじゃなく透析開始時も普通のとは違います。
しっかり学習し、その施設でちゃんとした手技を教わることが重要です。
何が煩雑かを簡単に説明すると、積層型なので血液側をプライミングするときは透析液側を開放して、血液側をしっかり拡げてプライミングをします。
その次に透析液側をプライミングします。
透析液側をプライミングすると、血液側はぺしゃんこになります。(この状態で血液ポンプを回しても血液側の水は送られません)
なので、開始時は血液側を拡げないといけないので、静脈クランプを締めてガスパージをかけながら血液ポンプを回します。
というように、少々手が込んでいます。
積層型が自動プライミングできる機械は、こういった手の込んだことは少し減ると思います。
8.透析膜の充填量が多い
積層型は膜の充填量、いわゆるプライミングボリューム(PV)が多いです。
なので、開始時に血管の浸透圧が低くなる恐れがあるので、開始時の血圧低下に注意しなければいけません。
ホスパルの充填量(PV)は、
- 膜面積1.04 → 126ml
- 膜面積1.25 → 142ml
- 膜面積1.53 → 173ml
です。これは結構多いです。
中空糸型のダイアライザでは大体が、
- 膜面積1.1 → 70ml
- 膜面積1.3 → 80ml
- 膜面積1.5 → 90ml
くらいです。
おおかた倍近くのプライミングボリュームです。
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