はじめに
透析患者さんの合併症として「掻痒症(かゆみ)」があります。
透析患者さんの7~8割が、何かしらの痒みの訴えがあると言われています。
強いかゆみは「睡眠の質低下」「QOLの低下」などが報告されており、これらが引き金となり、死亡リスクが増加する研究も出ています。
つまり、かゆみは生命予後に影響するということです。
かゆみの原因6つ
- 皮膚の乾燥
- 神経系の異常
- 老廃物の蓄積
- リン(P)の蓄積・二次性副甲状腺機能亢進症
- 血液と透析膜の接触による炎症作用
- その他
それぞれの原因についてみていきましょう!
①皮膚の乾燥

透析患者さんの皮膚は、乾燥しやすく皮膚バリアの機能が低下しています。
以下のような原因で皮膚が乾燥します。
- 高齢者がゆえの乾燥
- 除水による影響
- 水分摂取制限
- 発汗量や皮脂分泌の低下
こういった皮膚(肌)の乾燥を防ぐためにもスキンケアが大切です。
スキンケアは、保湿を中心としたものが基本です。
保湿剤を使用し、不十分な場合は、ステロイド含有剤を併用します。
皮脂が欠乏している場合には、白色ワセリンが用いられます。
これらの塗り薬により、皮膚角質に水分や油分を補うことで、潤いが保たれます。
それが、角質層機能(バリア機能)の回復につながり、かゆみが緩和されます。
また、肌の保湿を保つため、バリア機能を低下させないために、以下のような日常生活で気を付けるポイントがあります。
- お湯の温度は40℃以下にし、長湯は避ける➡熱いお湯は必要な皮脂まで溶かします
- 体を洗う洗浄剤は泡タイプの弱酸性を使用する➡一般的なボディーソープはアルカリ性のため、皮膚の乾燥を招く
- 冬は乾燥するので、湿度を保つ環境作りをする。
②神経系の異常

透析患者はかゆみを伝える神経(C-繊維)が通常よりも皮膚の表面近くに伸びています。
これによって、外部からの刺激に敏感になってしまいます。
また、かゆみの物質が多く分泌されていたり、その受容体に異常があることがわかっています。
対策としては、以下のような内服薬を検討します。
- 抗ヒスタミン薬
- 抗アレルギー剤
- レミッチ(ナルフラフィン塩酸塩)
③老廃物の蓄積

かゆみの原因となる物質は詳しくはまだ分かりませんが、α1-MG領域の分子量は「かゆみ」や「イライラ」の原因物質とされています。
α1-MGは分子量が33,000のタンパク質
このα1-MG領域の分子量を積極的に除去することが、痒みの低減につながる場合があります。
以下のような対策があります。
- オンラインHDFを試してみる(かゆみの原因のα1-MG領域の分子量が抜けやすい)
- 長時間透析をする
- 高血流
【オンラインHDFについての記事と、α1-MGの記事はコチラです】
④リン(P)の蓄積・二次性副甲状腺機能亢進症
リンの蓄積もかゆみを引き起こす原因とされています。
リンが蓄積しないような食事を心がけることが大事です。
また、リンの高値だけでなくカルシウムの高値もかゆみを引き起こします。
リンとカルシウムの蓄積は、2つが結合して異所性石灰化を引き起こします。
これらは、様々な臓器や組織(血管、肺、心臓、関節など)に沈着して、皮膚ではかゆみが起こります。
リンとカルシウムに関連して、二次性副甲状腺機能亢進症(SHPT)も症状としてかゆみがあります。
以上のことから、リン・カルシウム・PTHの分泌(二次性副甲状腺機能亢進症)はかゆみの原因とされますし、これらが相互作用しています。
【関連する記事はコチラです】
【対策】
- リンの摂取を控えた食事をする
- リンの吸着薬を正しく内服する
⑤血液と透析膜の接触による炎症作用
血液が透析膜に接触すると、血球がストレスを受けて補体や炎症性サイトカインが活性化します。
すると、※ヒスタミンなどのかゆみ物質が放出されたり、アレルギー反応が出てかゆみが起こります。
※ ヒスタミンとは、簡単に言うとかゆみの物質です。
花粉症などのアレルギーや、蕁麻疹にも関与しています。
透析患者はこのヒスタミンなどのかゆみ物質が、過剰に産生されやすいことが知られています。
対策としては生体適合性の合ったダイアライザー選択が必要です。
透析膜の生体適合性があっていないと以下のような症状が出ます。
- 透析膜残血
- 頭痛
- 血圧低下
- 発熱
⑥その他
- 使用している薬剤へのアレルギー
- 透析回路の固定テープ
- 止血用のパッチ(インジェクションパッド)
- 穿刺時の鎮痛用テープ(ユーパッチなど)
- 消毒薬
適宜患者さんに合うものに変更してください。
【他の合併症はコチラ】
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