はじめに
透析患者の短期合併症で、不均衡症候群があります。
不均衡症候群を理解するためには、浸透の原理や血液脳関門など、知らなければいけないことが沢山あります。
不均衡症候群ってなに?
不均衡症候群とは、体がまだ慣れていない透析導入期によく見られる合併症です。(短期合併症)
透析導入期とは透析を始めてから2週間以内のことを指します。
この期間に症状が現れます。
また、透析中から透析後12時間以内に起こるとされています。
そして、以下のような症状が出ます。
- 頭痛
- 吐き気
- 嘔吐
- 脱力感 など
これらの特徴があります。
一過性なので、通常は数時間程度で回復します。
原因
不均衡症候群では頭痛を訴えることがよくあります。
なぜかというと、老廃物除去で、体と脳の間に濃度差が生じます。
そして主に透析後に、脳の方に水分が移動し、頭痛が生じます。
頭には血液脳関門というバリア機能があります。
血液脳関門とは、薬や毒素を簡単に脳内に入らせないようにする機構のこと。(関門=バリア)
体の中の老廃物が除去できても、脳内の老廃物は最後に除去されます。
すると、下図のように体内と脳内に浸透圧差が生じ、脳内に水が入っていきます。
すると、頭蓋内圧亢進や脳浮腫を生じます。
これが頭痛につながります。
体が透析に慣れていけば、徐々に起こりにくくなります。
細胞内外の不均衡(さらに理解)
不均衡症候群は、細胞レベルの話をしていくと、細胞外液と細胞内液の差が生じることで起こります。(上図)
透析では、血液(血管の中)からしか老廃物を除去できません。
細胞外液の老廃物は、すぐに血管の中に移動しますが、細胞内液は血管の中に移動するまでに時間がかかります。
細胞内液の老廃物除去は、細胞内液➡細胞外液➡血管の中になるので時間がかかる!
こうなると、細胞外液の老廃物は除去されているのに、細胞内には老廃物が残っていることになります。
老廃物は浸透圧物質なので、細胞内の浸透圧が高く、細胞外の浸透圧は低いという状態になります(これを、不均衡状態という)
すると、細胞外から細胞内に水が移動して(濃度を均一にしようとするから)、細胞がむくみます。(下図)
これが脳内で起こっているから、脳圧亢進や、脳浮腫になります。
予防
透析導入時では、不均衡症状が出ないように以下のような予防をします。
- 血流量(QB)を落とす
- ダイアライザの大きさ(膜面積)を小さいものにする
- 透析時間を短くする(3日連続で1回2時間とかでやったりもします)
これらの予防法は、老廃物の除去を緩やかにするためです。
上記でも説明したように、老廃物の除去が多いと、浸透圧差も急激に起こりやすくなるからです。
また、これらの予防法をしても症状が強い場合は、グリセオールやマンニトールなどの高浸透圧溶液を使用します。
不均衡症候群は、細胞外液の浸透圧が急激に低下することが、原因の一つとして考えられています。
老廃物が除去されると、細胞外液の浸透圧が下がるので、別の浸透圧物質で透析中に補うことをします。
そうすることで、細胞内液と外液の浸透圧の差を抑えてくれます。
こういう目的として、「グリセオール」「マンニトール」などの高浸透圧溶液を透析中に使用することで、不均衡症候群を予防しています。
ちょっと待って、浸透圧物質なら「10%NaCl」や「ブドウ糖液」でもいいんちゃう?
これらを使用しないのには理由があります。
- 10%NaCl➡透析では除去しきれないのと、塩なので透析後の飲水量が増加する恐れがある
- ブドウ糖液➡高血糖になる恐れがある
という点においては、グリセオールは、肝臓の代謝でかつ、透析でも除去されやすいので、使用されやすいです。
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