はじめに
透析患者でのレストレスレッグス症候群の合併頻度は14~23%と言われています(一般人の有症率が2~5%)
かなりの高頻度です。
そして透析患者を悩ませる合併症の一つです。
参考文献:日本神経治療学会 標準的神経治療:Restless legs症候群
レストレスレッグス症候群(RLS)ってなに?
レストレスレッグス症候群(RLS:Restless legs)
日本神経学会用語集では下肢静止不能症候群と命名されていますが、近年はRLSあるいはむずむず脚症候群と称せられることが多いです。
むずむず症候群の方が、世間には浸透してるかなと思います。
- RLSは神経疾患の一つ
- 覚醒安静時および入眠時の四肢異常感覚(知覚異常)を特徴とする知覚障害
- 国際睡眠学会分類第2版(ICSD-2)の睡眠関連運動障害として分類される
知覚障害としては痒みが多いです。
また、中等症以上のRLSでは睡眠障害が頻発します。
なのですごく簡単に言うと「足が痒くて寝られない」のがレストレスレッグス症候群(RLS)です。
透析とRLS
報告者 | 雑誌名 | 報告年 | 地域 | 調査数 | 頻度 |
Takaki J | Am J Kidney Dis | 2003 | 日本 | 426 | 14.1% |
Kawauchi A | Clin Nephrol | 2006 | 日本 | 228 | 23.2% |
一般人の有症率が2~5%に対し、日本人透析患者でのRLS合併頻度は14~23%と高頻度です。
透析患者におけるRLSは多くの場合重症であり、覚醒中のジスキネジアや睡眠時周期性四肢運動(periodic limb movement in sleep:PLMS)の回数が極めて多いと報告されています※)
- ジスキネジア:不随意運動の一種
- 睡眠時周期性四肢運動(PLMS):睡眠中に主に下肢が周期的に短く動くものをいう
※)Wetter TC, Stiasny M, Dolso P et al : Polysomnographic sleep measures in patients with uremic and idiopathic restless legs syndrome. Mov Disord 13 : 820-824, 1998
分類
- 一次性(特発性)RLS : 小児期より症状が見られ、高頻度に家族歴が認められる
- 二次性RLS : 鉄欠乏、脊髄・末梢神経の障害、妊娠、慢性腎不全、リウマチ性疾患
RLSは一次性と二次性に分かれます。
今回は透析と絡めているので、二次性について主に解説している記事になります。
診断基準
2003年International RLS Study Group(IRLSSG)は4項目で表される診断基準を提唱しました。
これは外来の第一線臨床で診断ができるような簡便な診断基準です。
診断基準
- 脚を動かしたいという強い欲求が存在し、また通常その欲求が、不快な下肢の異常感覚に伴って生じる
- 静かに横になったり座ったりしている状態で出現、増悪する
- 歩いたり下肢を伸ばすなどの運動によって改善する
- 日中より夕方・夜間に増強する
さらに診断を補助する特徴として以下があります。
- 家族歴
- ドパミン作動薬による効果
- 睡眠時の周期性四肢運動(PLM)が睡眠ポリグラフ検査上有意に多く出現
RLSの知覚異常は脚を中心に局所的で、発現のピークは夕方および夜に現れます。」
まず二次性RLSか否かを判断し、二次性であれば薬物・嗜好品の中止、原因となる疾患や併存する病態の治療を進めます。
これで改善しないときあるいは二次性のものが否定され一次性(特発性)RLSの場合は、非薬物療法と薬物療法を進めます
そして定期的に治療評価、治療薬による合併症や副作用のモニタリングを行います。
治療にもかかわらず症状の悪化、合併症、副作用が出現時には治療方針を見直します。
臨床症状
RLSの中核症状は下肢を動かさずにはいられない衝動です
運動や足を動かすことによって改善するのが特徴です。
- 日中 → 日常生活に支障
- 夜中 → 睡眠障害
これによりQOLの低下、うつ症状になってしまう可能性もあります。
RLSは痒みだけではありません。
むずむず感を伴わない患者を見落とさないように注意が必要です。
RLSでみられる下肢感覚症状を以下に示します。
- うずく、熱い、火照る
- 冷たい、冷え
- 虫が這うような
- むずむずするような
- 引き寄せられるような
- 電気が流れるような
- あせり
- 痛みが強くなる
- 熱感
- イライラ、ビクビクした状態
- 不快でたまらない
- 不安がふくらむような
- 叫びだしたいような
- 表現できないつらさ
- むずがゆい
- 水が流れるような
- 痛い、痛がゆい
- かゆい
- 引っ張られるような
- じっとしていられない
- 焼けつくような 脚を切ってしまいたい
- 引き裂くような ズキズキする
- むりやり引っ張られるような
- 歩き回らずにはいれない
- 足踏みしたい
- 動かなくてはという気持ち
などなど、これらからわかるようにRLSは痛いだけじゃない知覚症状があらわれます。
また症状として、夜間の安静時に症状が出現しやすい特徴があります
つまりこのシチュエーションは寝るときです。
以下のような対処をします。
- 寝床の中で脚を動かす
- 立ち上がって歩く
- 屈伸をする
- 脚をさする(さすってもらう)
- 脚を叩く
- マッサージする
RLSの症状は、歩いたり足を伸ばすなどの運動によって、少なくとも運動を続けている間は症状の改善がみられるという特徴があります。
症状の特徴を以下に示します。
- 夕方~夜間にのみ起こる、もしくは増悪するという日内変動が特徴的
- 朝の時間帯に症状が出現することは稀
- 安静により症状が始まる、もしくは増悪する
- 動きを制限されるほど、また安静が長時間になるほど症状は増悪する
原因(病態生理)
① 脳の中では視床下部から前頭葉に走っているA11神経系がレストレスレッグス症候群に関係していて、ここの神経でのドパミンの働きが低下しているとされています。
② 延髄では、ドパミン神経の終末が交感神経と連絡していて、交感神経の興奮を抑える役目をしています。
でも①の原因のために、ドパミン神経が十分働けず、交感神経の抑制が障害されているとされます。
③ セロトニン神経系も、延髄で交感神経と連絡していて、交感神経を興奮させる働きがあります。
しかし、セロトニン神経系にも何らかの問題があるのではないかと指摘されています。
④ 交感神経が興奮すると、副腎からノルアドレナリン・アドレナリンが多く分泌されます。
ノルアドレナリン・アドレナリンは運動を命令するホルモンです。
⑤ 最終的に筋肉に動けと命令する運動神経は、①~④の原因で、過度に興奮してしまいます。
⑥ 前頭葉に走っているA11神経系の働きが十分でないので、前頭葉は情報を正確に処理できずに感覚異常が起こります。
つまり図中の天秤の絵にあるように、興奮が制御を上回ってしまって、それが症状につながると考えられます。
参考:https://www.evergreenlove.net/2016/11/blog-post_27.html
非薬物療法
まず必ず施行すべきは非薬物療法です。
- RLSの原因となる薬物や嗜好品の中止
- ドパミン遮断薬
- 抗うつ薬(SSRI、三環系)
- 抗ヒスタミン薬
- 嗜好品:カフェイン、アルコール、ニコチン
- 睡眠衛生指導や行動介入
- 規則的な就寝と起床
- 就寝前の激しい活動は避ける
- 就寝前に短い時間歩く
- 四肢(脚)のマッサージ
全く動かないことや、通常にない過剰な運動は、RLS の発症要因になりえます。
また、退屈でじっとしている時には、ゲームなどに意識を集中させたりと、症状から注意をそらす工夫も効果がありますよ。
薬物療法
ビシフロールは、透析患者では効きすぎる傾向があり、便秘や眠気が問題になることがあるみたいです。
またリボトリールは眠気は出るが、比較的残ることもなく臨床では使いやすいみたいです。
RLSはドパミンが低下するため、ドパミンを補充します。
また、鉄剤の補充はドパミンの合成に働くとされています。
しかし透析患者での鉄剤の補充はガイドラインに従う必要があります。
参考:新しいムズムズの治療となり得るか? – 加古川の腎臓や透析治療の専門医 – きたうらクリニック (kitauraclinic.jp)
透析療法
透析でのRLS改善ではα1-MG40%以上の除去(アルブミン5g以上)が必要と言われています。
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