透析患者では、糖尿病の有無に関係なく高血圧の合併頻度が高く、約80~90%です。
今回の記事では糖尿病患者に重点を置いて解説していきます。
一部糖尿病患者以外の方にも重なる部分はありますが。
また、低血圧においても末梢神経障害から引き起こされる透析終了後の起立性低血圧は、高血圧であるほど下がり幅が大きくなります。
臨床的特徴5
糖尿病透析患者の臨床的特徴として5種類あります。
①血圧日内変動が消失し(血圧が1日のリズムの中で変動しない)、いわゆる※non-dipper型高血圧が増加する(臥位高血圧)
※non-dipper型高血圧:夜間になっても血圧が下がらず、高いままのこと
②体位変換で起立性低血圧が生じる(立位低血圧)
③朝方にかけて反跳性(降圧薬の効果が切れたときに血圧が上がること)あるいは、持続性血圧上昇がみられる(morning surge)
④低たんぱく血症や自律神経障害により、透析中の血圧管理が不安定
⑤動脈硬化、冠動脈疾患などの血管合併症を併発し、高血圧を引き起こす
②では、通常の人だと体位変換をし、血圧が下がりそうになっても末梢神経が作用し、血圧が下がりすぎてしまわないように調節してくれます。
しかし、糖尿病透析患者は合併症でもある末梢神経障害の影響から血圧の自動調節が難しい状態にあります。
【起立性低血圧】
寝ている状態(臥位)から座位になったり、座位から立位になったりしたときに、急激に血圧がさがること。
重力の影響で血液が下肢に溜まることで、ふらつきが出てくる。
③のmorning surge(モーニングサージ)とは血圧サージ(あるタイミングで血圧が急変動を起こすこと)ともいわれます。
朝方にかけて薬の効果が切れるので、朝に血圧が上昇します。
これらにより、心筋梗塞や脳卒中など脳心血管疾病を起こす可能性が高まります。
④では糖尿病透析患者は低たんぱく血症(特に導入後半年くらいまで)の状態にあります。
糖尿病患者は透析導入ではネフローゼの状態のことが多く、蛋白尿が持続的に出ている状態です。
すると、体の中のタンパクが少なくなる低たんぱく血症を引き起こします。
透析中ではアルブミンといったタンパク質が血圧維持に大きな役割を果たしています。
しかし、低たんぱく血症の影響で血圧が維持できず透析中に低血圧になってしまいます。
アルブミンは透析導入後半年くらい経つと上昇してくるといったデータがあります。
⑤では糖尿病は動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞などの冠動脈疾患を引き起こしやすくなります。
動脈の断面は内膜、中膜、外膜の三層で構成されています。
動脈硬化が進む大きな原因は、内膜の部分にコレステロールが大量に取り込まれることです。
コレステロールは油なので水に溶けません。
そのため血液中では、水に溶ける蛋白質がコレステロールを包んで「リポ蛋白」として存在しています。
血糖値が高いときは、このリポ蛋白が酸化されたり、ブドウ糖が結合したりして変化し、その変化したリポ蛋白は、血管の内膜に蓄積されプラーク(粥腫)という塊を形成します。
このために、糖尿病があるとコレステロールがそれほど高くなくても動脈硬化が進行します。
原因5
糖尿病透析患者が高血圧になる原因は5つです。
①容量依存型高血圧
②レニン・アンギオテンシン系
③高インスリン血症の関与
④動脈硬化の影響
⑤自律神経障害
①容量依存型高血圧
第一の原因は体液量増加による容量依存型高血圧です。
透析患者において最も頻度の高い原因です。
血管内容量が過剰になり血圧が上昇します。
糖尿病透析患者は以下の原因により体液過剰が多く見られます。
①蛋白尿排泄量の増加(ネフローゼ症候群)
②心機能低下
③塩分の過剰摂取
①では糖尿病の方はネフローゼ症候群の状態にあることが多く、尿の中にたんぱく質が多く混ざり(蛋白尿)、排泄されてしまいます。
すると血液では低たんぱく血症になり、血漿が血管外へ漏れやすくなります。
②では動脈硬化や冠動脈疾患、自律神経障害などにより心機能低下が起きます。
③では塩分制限を守ることができずに、飲水量が増加してしまい体液過剰につながります。
透析前の高血圧はほとんどがこの容量依存型高血圧です
この高血圧は除水をするに伴って血圧が下がります。
また、DWを下げることで血圧が下がります。
②レニン・アンギオテンシン系
2つ目の原因としてレニン・アンギオテンシン系(RAS)の関与です。
腎臓では昇圧ホルモンとしてレニンを分泌しているので、レニン依存型とも言われます。
このレニン依存型は除水をするにつれて血圧が高くなります。
先ほどの容量依存型は除水をするに伴って血圧が低くなりますが、レニン依存型では逆で除水によって血圧が上がります。
透析の除水による体液量が減少しても、代償機構として、レニンが活性し血圧低下を防いでいます。
この昇圧ホルモンによって血管の収縮反応が亢進し、血圧上昇が起こると考えられています。
レニン依存型では体液量減少に伴うレニン分泌反応が極めて過大になるグループとして考えられています。
レニン依存型は全体の5%以下の頻度だろうと推察されています。
③高インスリン血症の関与
高インスリン血症では、高血圧や動脈硬化が容易に引き起こされます。
【高インスリン血症とは?】
高インスリン血症とは、インスリンが効きにくい状態のことです。
普通はインスリン製剤を打つと、血糖が下がるように作用します。
しかし高インスリン血症では、インスリンが効きにくくなるので、高血糖の状態が続きます。
すると、血液の浸透圧が高くなり、体液量や血液量が増加し、血圧が高くなります。
また、腎臓からナトリウムが排泄されにくくなり、高血圧になります。
④動脈硬化の影響
糖尿病では高頻度に粥状硬化(プラークの形成)があります。
進行すると大動脈やその分岐の伸展性が低下し、これが収縮期高血圧を引き起こします。
⑤自律神経障害
糖尿病で代表的な合併症として神経障害があります。
末梢神経や自律神経が障害されます。
これが高血圧発症または維持に関与していますし、起立性低血圧も神経障害の影響で引き起こされます。
糖尿病透析患者のDWはどうする?
- 起立性低血圧予防のためDWを少し甘くする
- 透析間の体重増加を適正にとどめる
- 塩分摂取を厳守する
では実際糖尿病透析患者のDWはどうするべきか?
もちろんDWを適正にできる場合は、適正までもっていくのが目標です。
しかし、起立性低血圧が起きたり、透析後の倦怠感が強すぎたりすると、患者のQOLを損なうことになります。
その場合はDWを高めに設定し、目標の血圧を若干高めに設定してあげる生活体重を参考にすることが重要です。
透析医学会の統計では収縮期血圧が140~160mmHgに管理すると、最も生命予後を改善するとされています。
高血圧治療ガイドライン(2019年)では糖尿病患者の血圧は130/80mmHg未満としていますが、これを鵜吞みにしてはいけません。
②の透析間の体重増加は中1日で3%、中2日で5%をの体重増加を守ることが重要です。
③の塩分摂取は、1日の塩分を7g以内にします。
塩分摂取と水分摂取は比例しています。
塩分厳守することによって、水分摂取量を控えることができます。
人間の体は体液の濃度を一定に保とうとするので、塩分を多くとると、その分体を薄めて一定に戻さないとと脳に指令が入り、水分を摂取してしまいます。
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