はじめに
シャントは動脈と静脈を吻合させ、動脈血を静脈に流しているので、非生理的な血液の流れになります。
なので、シャントを作成すると、様々な合併症が起こってしまいます。
詳しい説明は各リンクをクリックして飛んでください!
また動画解説も最後にありますよ!
シャント合併症6選
- 狭窄
- スチール症候群
- 静脈高血圧症
- 瘤
- 感染
- 過剰血流
これらについてザックリ解説していきます
1.狭窄
狭窄とは、前後の血管径に比べて50%以上の狭窄が見られて、かつ臨床症状を有する場合です。
一般的には「前後の血管径に比べて50%以上の狭窄」と「狭窄径は1.8mm以下」が基準です。
ここでいう臨床症状とは以下のような場合です。
- 脱血不良(それによる透析量の低下)
- 静脈圧の上昇
- 静脈高血圧症
- 再循環 など
これら臨床症状を有する場合はVAIVTの適応になります。
狭窄が進むと血流が低下して、シャント閉塞します
狭窄部から末梢は血液が淀み、血流が低下します。
すると、血栓の形成が促進され、狭窄部から中枢は血流がなくなります。
シャント閉塞を起こすと、以下のような対処をします。
- ウロキナーゼ + ヘパリン投与
- シャントマッサージ
- VAIVT 施行
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2.スチール症候群

スチール症候群(DASS:dialysis access steal syndrome)
末梢組織へ向かうはずの動脈血流がシャント静脈側へ盗血されることによって、末梢虚血症状が起こる状態です。
ではここで英語の勉強なんですが、スチール(steal) → 盗む という意味です。
スチール症候群は、本来は指先に流れるはずの血流がアクセス静脈(吻合静脈)に盗まれるため発症します。
末梢に血液がいかなくなるので、虚血症状(チアノーゼ)をきたします。
以下のような症状が出ます。
- 痺れ
- 疼痛
- 冷感
- チアノーゼ
これらは軽度なもので、日常生活に大きな影響を及ぼすことはあまりありません。
重症化すると、潰瘍や壊疽による手指切断や虚血性神経麻痺(IMN)といった不可逆的な神経障害があらわれます。
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3.静脈高血圧症

静脈高血圧症とは、シャント静脈より中枢側に狭窄・閉塞が起きると、末梢側の血液が滞り、腫脹を生じる状態のこと
基本的には狭窄・閉塞部位よりも末梢に腫脹が生じます。
腫脹が生じはめた部位に狭窄があると予想しながら、検査を進めることが大事です。
代表的なものでいえば下図のような鎖骨下静脈の狭窄です。

鎖骨下静脈の閉塞によって上腕全体の腫脹が見られます。
上図のように、末梢の血液が行き止まり状態になります。

シャント肢の静脈高血圧症は以下の3種類に分かれます。
- 上腕型
- 前腕型
- 手指型(ソアサム症候群)
①上腕型➡主に鎖骨下静脈の閉塞により上腕全体に腫脹を生じます
②前腕型➡肘部の血管の閉塞により、肘から下に主張を生じます。
③手指型(ソアサム症候群)➡吻合部よりすぐ中枢の血管の閉塞により、手首から下に主張を生じます。
これを「ソアサム症候群」といいいます。
ソアサム症候群は側々吻合で発生しやすい
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4.瘤

瘤の定義は、血管が局部的に円筒状または紡錘状、あるいは囊状に拡張した状態と定義されています。
上図が形状です。
瘤はすべて治療対象となるわけではなく、治療対象ではない瘤は経過観察をします。
切迫破裂の危険がある瘤(破裂しかかっている危ない瘤のこと)は、手術適応となります。
ちなみに、60歳以上のシャント瘤は大きくなりにくいのが特徴です。
以下のような瘤は治療対象となります。
- 急速に(短期間で)増大する瘤(4cm以上)
- 皮膚に光沢を有する瘤(テカテカしている)
- 感染を伴う瘤
- 皮膚の発赤やびらんを有している瘤
これらの特徴がある時は、総合的に評価し、瘤の摘出術が必要になります。
また、生活に不自由が出たり支障をきたす場合も手術の適応となります。
例えば、衣服と擦れたり、女性の場合は美容的に気になり半袖が着れないとかです。
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5.感染
シャント感染の原因は、穿刺による針や傷からの感染です
また、穿刺以外にも肺炎や膀胱炎などの全身の炎症を引き起こしている細菌が血液にのり、シャントに付着することもあります。
痒みからも感染を引き起こす引き金になります。
痒い → 引っ掻く → 傷ができる → 菌の侵入
につながってくるので痒みのケアも非常に大事になってきます。

免疫不全の原因は多岐にわたります。
以下のような腎機能低下によるもの
- Bリンパ球やCD4陽性Tリンパ球数の低下
- T細胞、好中球の機能が低下
- 細胞性、液性免疫の低下
これらの腎機能低下によるものや、以下のようなCKDのリスクでもある
- 尿毒症
- 酸化ストレス
- 血管内皮障害
- 慢性炎症
- 骨ミネラル代謝異常
- 代謝性アシドーシス
これらが免疫応答を低下させ、易感染性になるのではないかと考えられています。
参考:特集 免疫不全宿主における感染症診療 Ⅳ. 腎不全 / 透析と感染症 腎不全/透析と感染症
透析患者における黄色ブドウ球菌菌血症の発生率は、一般の患者と比較し46.9倍と報告されています※1)
- 75%:グラム陽性菌
- 25%:グラム陰性桿菌
シャント感染の原因菌はほとんどがグラム陽性菌です。
グラム陽性菌の内訳は以下の通りです。
- MSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)
- MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
- CNS(表皮ブドウ球菌等のコアグラーゼ陰性ブドウ球菌)
耐性菌であるMRSAの割合がより高いです。
グラム陰性桿菌は、大腸菌、エンテロバクターならびにクレブシエラを含むものです。
黄色ブドウ球菌感染症の場合は重篤になりやすく、6割程度が菌血症を合併し、その致死率は約20%と高いと報告があります※2)
※1)Suzuki M, et al : Bacteremia in hemodialysis patients. World J Nephrol 5 : 489―496, 2016.
※2)廣谷紗千子:バスキュラーアクセストラブルの診断法と対策.腎と透析,2012;72:573-8.
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6.過剰血流
過剰血流に明確な定義はありません。
なぜかというと、患者個々の状態や心予備力により、過剰血流となる血流量に違いがあるからです。
なので、VAからの還流血流量が増加し、循環動態の許容範囲を超える場合を過剰血流といいます。
ガイドラインの文章から読み解くと、血流がただ多いということが過剰血流なのではなくて、「血流が多い + それによって心臓などに影響を与える」ことが過剰血流と定義するみたいですね!
なので、血流がさほど多くなくてもそれによって※心機能障害が生じている場合、過剰血流となりうるということです。
心機能障害というのは具体的に以下のようなことです。
- 虚血性心疾患
- 拡張型心筋症
- 弁膜症
- 心筋炎
厳密に過剰血流となる血流量を定義づけることは難しいようです。
「過剰血流の定義はない」と先述しましたが、参考値は以下の2つがあります。
- シャント流量(Flow):1,500~2,000mL/min以上
- Flow/CO:30~35%以上
この2つが心臓に影響を与えたり、高拍出性心不全を生じる参考値になる
Flow/COは、シャント流量(Flow)を心拍出量(CO)で割った値×100をします
例を出すと…
- シャント流量:2000mL/min
- 心拍出量:5000mL/min
とすると、Flow/CO×100 = 40%
ということになります。
参考値の30~35%を上回っているので、過剰血流の可能性があります。
動画で解説はコチラ
これら①~⑥のシャント合併症を詳しく動画で解説しています。
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