はじめに
VAは血液透析をするためには必要不可欠ですが、シャントを作成するので非生理的なものになります。
そのため、VAを設置することによって、血行動態や心機能に影響を与えることが明確になっています。
シャント合併症の一つとして、過剰血流があります。
過剰血流とは、ただ多くのシャント血流が流れるということではありません。
今回は過剰血流について説明していきます。
過剰血流の定義はあるの?
過剰血流に明確な定義はありません。
なぜかというと、患者個々の状態や心予備力により、過剰血流となる血流量に違いがあるからです。
なので、VAからの還流血流量が増加し、循環動態の許容範囲を超える場合を過剰血流といいます。
ガイドラインの文章から読み解くと、血流がただ多いということが過剰血流なのではなくて、「血流が多い + それによって心臓などに影響を与える」ことが過剰血流と定義するみたいですね!
なので、血流がさほど多くなくてもそれによって※心機能障害が生じている場合、過剰血流となりうるということです。
心機能障害というのは具体的に以下のようなことです。
- 虚血性心疾患
- 拡張型心筋症
- 弁膜症
- 心筋炎
厳密に過剰血流となる血流量を定義づけることは難しいようです。
参考値
「過剰血流の定義はない」と先述しましたが、参考値は以下の2つがあります。
- シャント流量(Flow):1,500~2,000mL/min以上
- Flow/CO:30~35%以上
この2つが心臓に影響を与えたり、高拍出性心不全を生じる参考値になる
Flow/COは、シャント流量(Flow)を心拍出量(CO)で割った値×100をします
例を出すと…
- シャント流量:2000mL/min
- 心拍出量:5000mL/min
とすると、Flow/CO×100 = 40%
ということになります。
参考値の30~35%を上回っているので、過剰血流の可能性があります。
症状
過剰血流になると、以下のような症状が出る可能性があります。
- 高拍出性心不全
- スチール症候群(末梢スチールや鎖骨下動脈スチール)
- 静脈高血圧症
- 不整脈(発作性心房細動・慢性心房細動・洞不全症候群 )
スチール症候群は過剰血流で起きやすく、吻合部位、吻合の種類によっても発生のしやすさが変わってきます。
スチール症候群が起きやすい吻合部位、吻合の種類は以下の通りです。
- 吻合部位:肘部当たりの吻合部
- 吻合の種類:側々吻合
スチール症候群はコチラで解説しています。
高拍出性心不全
高拍出性心不全とは、心機能が亢進しているのにも関わらず心不全をきたしている病態です。
過剰血流による高拍出性心不全では以下のような症状が出ます。
- 労作時の息切れ
- 動悸
- 下肢浮腫
- 食欲低下
- 起座呼吸
また、これらの器質的疾患の存在下ではより重症化します。
- 虚血性心疾患
- 心筋症
- 弁膜症
- 心筋炎
- 洞不全症候群
要因
過剰血流の一番の要因は、シャント作成時に吻合部径を大きくしすぎることです
その他には以下のようなことが要因として挙げられます。
- 肘部等の中枢で作成された場合
- 上腕動脈で作成されたシャント
- AVG
所見
過剰血流の所見は以下が挙げられます。
- 静脈が怒張して、屈曲や蛇行が強い
- 静脈瘤、流出動脈の拡張、吻合部瘤を伴う
- 吻合部が肘部にある
- AVGの使用
- 血管の拍動が以前より強くなっている
- 止血困難
- シャント肢の浮腫
治療
過剰血流の治療は内科的治療と外科的治療があります。
内科的治療では以下のような治療をします。
- ドライウェイトの是正
- 血圧コントロール
- 運動
- 食事
- 薬物療法
体液過剰がシャント血流増加につながるため、ドライウェイトを適正にします。
外科的治療では以下のような治療をします。
- シャント血管のバンディング(動脈側・静脈側)
- 吻合部縫縮
- 吻合部隔壁形成術
- 動脈側バンディング
- 動脈結紮
- 静脈分枝結紮
- グラフトインターポジション
血流抑制では治療介入によるシャント閉塞・血流量不足、瘤化、感染などの不利益を抑えつつ、症状の軽減や血流抑制効果の長期維持などの利益を得ることが必要です。
そのための術式は再現性に優れ、簡便であることが求められます。
外科的治療の特徴はコチラで解説しています
【他のシャント合併所はコチラ】
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