はじめに
スチール症候群とは、シャント作成後により発症する末梢循環障害のことで、末梢が虚血状態になります。
悪化すると、壊死により手指の切断を余儀なくされます。
今回はスチール症候群について、分かりやすく解説していきます。
スチール症候群ってなに?
スチール症候群(DASS:dialysis access steal syndrome)
末梢組織へ向かうはずの動脈血流がシャント静脈側へ盗血されることによって、末梢虚血症状が起こる状態です。
ではここで英語の勉強なんですが、スチール(steal) → 盗む という意味です。
スチール症候群は、本来は指先に流れるはずの血流がアクセス静脈(吻合静脈)に盗まれるため発症します。
末梢に血液がいかなくなるので、虚血症状(チアノーゼ)をきたします。
症状
- 痺れ
- 疼痛
- 冷感
- チアノーゼ
これらは軽度なもので、日常生活に大きな影響を及ぼすことはあまりありません。
重症化すると、潰瘍や壊疽による手指切断や虚血性神経麻痺(IMN)といった不可逆的な神経障害があらわれます。
Fontaineフォンテイン分類
スチール症候群の虚血症状には段階があり、Fontaine分類を適応することで、重症化の評価が可能になります。
Fontaine分類 | |
stage1 | DBI(日本ではSPPが用いられることが多い) 0.6未満の低下を伴う手指の冷感・蒼白 |
stage2 | 透析や運動時に増強する疼痛 |
stage3 | 安静時の手指疼痛 |
stage4 | 皮膚潰瘍や壊死 |
どんな人になりやすいのか?
スチール症候群のなりやすい人は以下のような人です。
- 高齢者
- 糖尿病
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- 末梢循環障害を呈する患者
- 閉塞性動脈硬化性を呈する患者
- 過剰血流
- グラフト
- 上腕部(高位アクセス)でシャントを作成している人
- 頻回のシャント手術で末梢動脈の血流が低下している人
発症頻度は1~9%との報告があります。
背景
近年では以下のような背景により、スチール症候群がより発生しやすい環境であると考えられます。
- 透析患者の高齢化
- 糖尿病を原疾患とする透析患者の増加
- 透析の長期化に伴う複数回のVA作製などにより、末梢動脈が荒廃した患者の増加
また発生頻度はAVFよりもグラフトの方が多いです。
日本ではグラフトの割合が近年増加しています。
つまり今後もスチール症候群の割合が増加すると考えられます。
発症時期
発症時期には短期と長期があります。
- 短期:シャント作成24時間以内に急速に起こるもの
- 長期:次第に増加するシャント血流量、および動脈硬化の進行によっておこるもの
診断
診断は患者の主訴と客観的評価を行います。
患者さんの主訴は以下のような訴えです。
- 疼痛
- 痺れ
- 冷感
しかし、この訴えがスチール症候群によるものなのか、他のもの(手根管症候群や神経性疼痛)によるものなのかの判断に注意です。
客観的評価は以下のような評価項目があります。
- DBI(Digital Brachial pressure Index):0.6未満
- 超音波検査検査:末梢血流量の評価
- レーザードプラ血流計
- 血管造影(動脈造影):逆行性血流の確認
- サーモグラフィ
DBIは、日本ではあまり行われなく、SPPが多いです。
SPP(skin perfusion pressure)とは、皮膚灌流圧のことです。
以下のような報告もあります。
スチール症候群の客観的評価法として、DBI,SPPともに有用な検査法であるが、SPPのほうが診断能力および重症度判定に優れていることが示唆された。
透析会誌 53(2):53~59,2020 原著 バスキュラーアクセス関連スチール症候群に対する digital brachial pressure indexとskin perfusion pressure の比較
スチール症候群に対するSPPの診断基準は55~60mmHg以下です。
30mmHg未満でFontaine分類Ⅲ度以上の重傷と報告されています。
治療方針のフローチャートはコチラで解説しています。
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