はじめに
DWは透析にとって永遠の課題ですよね…。
DWを決めるうえで大切なのは、たびたび見直しをすることです。
透析患者さんは私たちと同じように、太ったり痩せたりして、DWが合わなくなることがあります。
そのたびに再設定することが大事です。
DWの指標は10個以上ありますが、6つ解説します。
DWは何かの検査値でピタッと決められるものではなく、様々な検査、測定値、患者さんの状態で総合的に判断します。
基準値や考え方は施設や個人によっても違いますので、参考までにしてください。
DWの基礎知識は以下の記事で確認して下さい。
DWの指標
DWは様々な指標や検査結果から総合的に判断します。
- 体調や血圧・浮腫
- CTR(胸部レントゲン)
- hANP(ハンプ)・BNP
- 下大静脈径(IVC径)
- PWI(血液濃縮率)
- ブラッドボリューム(BV計)
これらを参考にします。
①体調や血圧・浮腫
検査値や測定値を見るのは重要ですが、数値だけではなく患者さんの体調や浮腫など外見に目を向けることも大事です。
まず体調は、透析後に強い倦怠感や、体が重いなどの全身に現れる症状がないことです。
これらの症状がある時は、DWがきつい(引きすぎ)可能性があります。
DWを引きすぎているときは以下のような症状が出ることがあります。
- 透析後に強い倦怠感や体が重いなどの全身症状がある
- 透析中や直後に下肢つりがある
- 透析中に冷や汗をかいている
透析中や直後の下肢つりがないかどうかも、判断の目安となります。
透析中の下肢つりは、DWが合っていないことが原因で、血液が濃縮されて引きおこる場合もあります。
【透析中の下肢つりはコチラで詳しく解説しています】
患者が家に帰ってから、体調がどうかというのも見る必要があります。
患者さんが「楽」と思う体重と、医学的にみてDWが適正というのは、少し違うのでそこは注意してください
次に血圧ですが、平常時の血圧が高くないこと、透析中や透析後に急激な血圧低下がないことが重要です。
具体的な数字で言うと平常時の血圧は最高血圧140~160が、最も死亡リスクが少ないという文献もあります。(日本透析医学会雑誌 Vol.31 No.1 2016)
それ以下でも、透析中の血圧低下など問題がなければ、大丈夫です。
また、透析歴が長い人は「慢性低血圧」になり、常に100切っている方もいますので、あくまで目安として。
すごく簡単に言うと、血圧が常に高いとDWを低くします。
常に低いとDWを上げます。
ただ血圧に関しては、薬や神経系、ホルモンの影響によっても変わってきます。
また血圧は日内変動があるため、いつどのような状況で測定したのかというのも注意が必要です。
次に浮腫です。
患者さんの外見にも目を向けてみましょう。
浮腫は以下のようにみます。
- いつ見る:透析前後
- どこを見る:顔(主にまぶたに強くあらわれます)や下肢(すねや足背部)
- どう見る:下肢の浮腫は顕著に表れるので、足背部やすねの部分を押してみて、皮膚の沈みが強く、戻りが遅かったらむくみが強いといえる
また、透析後(自宅に帰った後)もむくみが気になるかどうか聞いてみましょう。
浮腫みが気になる場合は、DWを下げていった方が良いかもしれません。
②CTR(胸部レントゲン)
心胸(郭)比(CTR:Cardio-Thoracic Ratio)
CTRとは、胸郭の横幅に対し、心臓の横幅がどれだけあるかという比率を求めています。
これによって、心臓が大きくなっているかどうか(水が溜まっているかどうか)がわかります。
- 基準値:男性50%以下、女性55%以下(この通りではない)
- 頻度・いつ:月に一回透析前または透析後(ほとんどの病院が月に一度)
- 吸気時に撮る(胸郭が開いた状態で撮る)
CTRが大きくなる流れは以下の通りです。
体内の水分が多くなると、細胞外液量が多くなる
↓
血管内水分量が多くなる
↓
心臓が大きくなる
↓
CTRが大きくなる
なので単純に考えるとCTRとDWは以下のように調整します。
- CTRが大きい → 水が溜まっている → DWを下げる
- CTRが小さい → 水が枯渇している → DWを上げる
という指標になります。
しかしCTRは本来は数字を見るものじゃなく、画像を比較するものです。
前に撮った写真と比較して今どうなっているか、という評価が大切です。
数字はあくまでおまけなので、CTRは画像で判断するようにしてください。
また、CTRは誤差要因も大きいので、注意が必要です。
【CTRはコチラの記事で詳しく解説しています】
③hANP(ハンプ)・BNP
まずはhANPからです。
hANP(human atrial natriuretic peptide):ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド
基礎的な知識は以下です。
- 呼び方:ハンプ
- 透析後に採血
- 透析患者の基準値:25~100(pg/dl)
ハンプは心房から分泌されるホルモンで、体液量の増加によって分泌されます。
なので、体液量が多くなる→体液量多いよーと心房からハンプが分泌されます。
100以上であればDWを下げ(体液量が多いから)、25以下であればDWを上げる(体液量が少ないから)というものです。
25~60が適正範囲と考える文献もありますが、上限は100でいいと思います。
続いてBNPです。
BNP(brain natriuretic peptide ):脳性ナトリウム利尿ペプチド
基礎的な知識は以下です。
- 呼び方:ビーエヌピー
- 透析後に採血
- 透析患者の基準値:150~200(pg/dl)?との記載もあるが実際はそうはいかない
BNPは脳性と書いてありますが、心室から分泌されるホルモンで、心室の筋肉が伸展した場合に値が高くなります。
最初はこのホルモンが脳で見つかったので、脳性という名前になりました。
心不全の重症度マーカーに使用されます。
- BNPが高い → DWを下げる
- BNPが低い → DWを上げる
といった指標となります。
透析患者で値が150~200であれば透析患者として心機能(左心機能)コントロール良好と言われますが、実際にはこのようにはいきません。
BNPの基準値は「適正なDWで、かつ心不全を認めない時点で測定した数値が各個人の基準値」という考えに基づき、DWの指標にした方が良いのかなと私は思います。
DWのhANP・BNP・NT-proBNPはコチラの記事で詳しく解説しています。
④ 下大静脈径 (IVC径)
下大静脈径基準値(透析患者):6~10mm(透析後で呼気時)
超音波エコーで測定する方法で、呼気時の下大静脈径を指標にします。
22mm以上でうっ血(水が溜まっている)の可能性が高くなります。
⇩IVCに関しての詳しい内容はコチラをご覧ください⇩めちゃめちゃわかりやすいです。
透析note【臨床工学技士 秋元のブログ】透析患者さんのIVC径の基準値をわかりやすく解説します
IVC径は右房圧(中心静脈圧)を測定しています。
右房圧は循環血液量を反映しています。
なのでDWの判定に有用です。
しかしIVC径は個人差が大きいですし、測定者の技量によっても数値が変わってきます。
なので参考程度にしてください。
⑤ PWI(血液濃縮率)
PWI(Plasma Water Index)
PWIは、透析前後の血漿タンパク質(TP)の濃度変化から、循環血漿量変化率を求める方法です。
基準値は2~4でDWが適正という指標になります。
考え方は以下のようになります。
PWIが4以上
↓
血液濃縮率が大きい
↓
除水過剰
↓
DWがきつい
↓
DWを上げる検討
PWIが2以下
↓
血液濃縮率が小さい
↓
水分が余っている
↓
さらに除水可能
↓
DWを下げる検討
といった考え方です。
PWIは検査値から計算可能です。
PWI=①タンパク濃縮率 ÷ ②体重変化率
①タンパク濃縮率= 1-(透析前TP ÷ 透析後TP)
②体重変化率=(透析前体重-透析後体重)÷ 透析前体重
で求められます。
例を以下に示します。
- 透析前TP:5.8
- 透析後TP:7.0
- 透析前Wt:53.0kg
- 透析後Wt:50.0kg
だとすると、PWIは3.03となりますので、計算してみてください!
【PWIやKrはコチラの記事です】
⑥ ブラッドボリューム(BV計)
透析中の除水によって起こる血管内容量(ブラッドボリューム)の変化を、経時的に評価しています。
透析中では除水によって血管内の血液量は減少しますが、プラズマリフィリングによって充填され、血管内のボリュームは保たれています。
しかし、除水がきつすぎると、除水量に対してプラズマリフィリングの量が追いつかず、血管内容量(循環血液量)が少なくなります。
BV計は、除水速度とリフィリングレート(プラズマリフィリングの速さ)のバランスを見ることができます。
基準値はー15%以内です。
例えばー25%などの血管内容量の少ない(濃縮率が大きい)状態では、除水がきついかもしれないのでDWを上げるか検討します。
一方、-5%などの濃縮が小さく、血管内容量が保たれている場合では、DWを下げるか検討します。
しかし、-25%などの血管内容量の少ない状態でも適正とされる場合があります
また、-5%などの濃縮が小さい場合でも、血圧が下がったりなどの症例もありますので、個人差はあります。
個人差はあるものの、BV計は非常に有力な情報となります。
ドライウェイトの指標でコレという決定的なものはありません。
検査値や患者さんの状態など総合的に判断して決定してください。
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