はじめに
透析の検査値でMg(マグネシウム)はあまり、フューチャーされてないように感じます。
しかし最近の研究では骨折と石灰化、そしてPTHに関与していることが報告されています。
今回はMgに関する報告を7つまとめてみました。
基礎知識
Mgは骨や筋などの細胞に99%含まれていて、細胞外液に1%含まれています。
細胞外液1%の中で血清Mgは0.3%となります。
体内では4番目に多い陽イオンです(Ca>Na>K>Mg)
Mgは腎臓から排泄されるため、腎機能が低下してくると、高Mg血症になります。
基準値
基準値は明確にはわかりませんが、よく言われているのは1.8~2.5(mg/dL)です。
しかし透析患者では血清Mg値は少し高めの方が生命予後が良いことが明らかになっています(後で解説)
1.8~2.5よりも少し高めの2.5~3.0が良いと言われています
その方が骨折のリスク回避と血管石灰化予防につながります。
Mg値が与える影響
Mgは骨折のリスク回避と血管石灰化予防、PTHの低下につながります。
逆に低Mgでは以下のような悪影響があります。
- 骨折のリスク上昇
- 血管石灰化のリスク上昇
- PTHの分泌増加
ではMgに関わる報告を7つ紹介していきます。
- 生命予後
- 骨折
- 石灰化
- PTH
これらの報告があります。
Mgと生命予後に関する報告
血清Mgは健常者の基準値よりもやや高めの2.7~3.0(mg/dL) において最も予後が良いことが認められている
Sakaguchi Y, Fujii N, Shoji T, Hayashi T, Rakugi H, Isaka Y. Hypomagnesemia is a significant predictor of cardiovascular and non‒cardiovascular mortality in patients undergoing hemodialysis. Kidney Int 2014; 85: 174‒81
日本人透析患者を対象とした2つの大規模研究の結果、2.5~3.0mg/dLの血清Mg値の範囲で全死亡リスクが低値となることが明らかとされている 1)2)
1) Sakaguchi Y, Fujii N, Shoji T, Hayashi T, Rakugi H, Isaka Y. Hypomagnesemia is a significant predictor of cardiovascular and non‒cardiovascular mortality in patients undergoing hemodialysis. Kidney Int 2014; 85: 174‒81.
2) Kurita N, Akizawa T, Fukagawa M, Onishi Y, Kurokawa K, Fukuhara S. Contribution of dysregulated serum magnesium to mortality in hemodialysis patients with secondary hyperparathyroidism: a 3‒ year cohort study. Clin Kidney J 2015; 8: 744‒52.
この2つの報告からいくと2.5~3.0が最も良いことが分かります。
透析患者のMg値の現状を解説します。
腎不全患者ではMgの尿中排泄が低下するため、高Mg血症をきたしやすいとされています。
しかし実際は以下の2つの報告があります。
- 維持血液透析患者のうち20%程度は正常基準値以下
- 全体の58%が2.7(mg/dL)未満3)
この理由は透析液とファーストフードです。
透析液Mg濃度のほとんどが1.0mEq/L(=1.2mg/dl) と低く設定されているため、Mgも低値傾向となりやすいです。
また加工食品やファーストフードの普及により、特に先進国において食事からのMg摂取量は必要量を下回る傾向にあります。
以上の理由から、維持透析患者のMgは低値も珍しくはありません。
3) Sakaguchi Y, Fujii N, Shoji T, et al. Magnesium modifies the cardiovascular mortality risk associated with hyperphosphatemia in patients undergoing hemodialysis: a cohort study. PLoS One 2014; 9: e116273
参考文献:透析会誌 53(3):147~151,2020 研究速報 透析患者における食事マグネシウム補給について ―食品常用量当たり含有量およびモデル献立からの検討―
Mgと骨折の報告
透析患者において男性および女性患者とも、血清Mg濃度と橈骨BMD(骨密度)には、有意な正相関が認められていた
奥野仙二,長末京子,坪庭直樹,他.血液透析患者に おける血清マグネシウム濃度と橈骨骨密度の関連につ いての検討.JJSMgR 2010; 29: 41‒51.
腰椎圧迫骨折を認める群では、認めない群に比較して、血清Mg濃度は有意に低値であった4)
4) 岡本圭司,奥野仙二,坪庭直樹,他.透析患者におけ る血清マグネシウムと腰椎圧迫骨折の検討.JJSMgR 2010; 29: 69‒70.(学会発表)
また、約10万名の本邦の透析患者の統計調査のデータにおいて、血清Mgが低値であると、大腿骨骨折の発症リスクが高かったことが報告されている5)
5) Sakaguchi Y, Hamano T, Wada A, Hoshino J, Masakane I. Magnesium and Risk of Hip Fracture among Patients Undergoing Hemodialysis. J Am Soc Nephrol 2018; 29: 991‒9
つまり1つ目に関しては、血清Mg濃度が高いと橈骨骨密度も高かった、ということ。
2つ目はMg値が低値だと骨折の発症リスクが高かった、ということです。
CKD患者では、骨折のリスクが高いことが知られています。
透析患者における大腿骨骨折のリスクは、一般人に比較して4~6倍程度高いとされています。
Mgと石灰化の報告
透析患者において、僧帽弁の石灰化を認める群において、血清Mg濃度が低値であったとの報告もある。さらに、冠動脈石灰化のリスクを有する保存期CKD患者において、血清Mgは冠動脈石灰化と負の関連を認めたことも示されている
Sakaguchi Y, Hamano T, Nakano C, et al. Association between density of coronary artery calcification and serum magnesium levels among patients with chronic kidney disease. PLoS One 2016; 11: e01636737)
Mgは、石灰化に関連する因子であるbone morphogenetic protein 2(BMP‒2)や runt‒related gene 2(RUNX2)、オステオカルシンやALPの発現を抑制し、同様に石灰化抑制因子であるオステオポンチンやマトリックスグラ蛋白質(MGP)の発現を増加させることが示されている
Ter Braake AD, Shanahan CM, de Baaij JHF. Magnesium counteracts vascular calcification passive interference or active modulation? Arterioscler Thromb Vasc Biol 2017; 37: 1431‒45.
つまり血清Mg低値では、石灰化を促進させるという報告です。
MgとPTHの報告
透析患者において、血清のMgとPTH濃度には、負の相関が認められたとの報告もある
透析会誌 51(11):657~664,2018 特集:CKD—MBD CKD‒MBD 新しい話題(1);マグネシウム
- 透析液のMg濃度上昇:血清PTH濃度が低下し、Caやリン濃度も低下
- 透析液のMg濃度低下:血清PTH濃度が上昇
このようにMgはPTHの産生や分泌を介して、CKD‒MBDに関連している可能性も考えられています。
高Mg血症
以上の報告からMgは高めの方が良いと言っていますが、当然高Mg血症には注意しないといけません。
CKD患者における高Mg血症は、通常無症候性です。
しかし薬剤による高Mg血症に注意が必要です。
Mgを上げる薬剤は以下のようなものが挙げられます。
- 制酸薬
- Mg含有下剤
- リン吸着薬(カルタンが一番多い)
逆に考えるとMgが低い時にはこれら薬剤を積極的に使って、補正するといった考え方もあります。
要は使い方次第ですね。
まとめ
- 血清Mgは2.5~3.0が最も良い
- 透析患者の血清Mg濃度低値は透析液とファーストフードが関与している
- 血清Mg濃度が高いと、骨密度も高かった
- 血清Mg低値では大腿骨骨折の発症リスクが高かった
- 血清Mg低値では石灰化を促進させる
- 血清MgとPTH濃度は負の相関がある
- 3.0以上の高Mg血症には気を付ける
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