はじめに
透析患者の栄養状態は生命予後に大きく関連します。
栄養不良の透析患者の予後は悪いことが知られており、易感染から重篤な感染症を発症したり、筋肉の消耗により廃用症候群を招いたりと、悪いことばかりです。
透析患者に対する低栄養状態の呼び方としてPEWが世界基準になってきています。
今回はこのPEWとはなんぞや!?というのを解説していきます。
PEWってなに?
まずは箇条書きで、、、
- PEW(protein-energy wasting):蛋白・エネルギー消費状態
- 食事摂取ができているのにも関わらず栄養障害が起きている状態
- 透析患者に対する栄養不良状態の呼び方
- 国際腎疾患栄養代謝学会と国際腎臓学会が2008年に提唱した概念
- 透析患者の50%以上がPEW
PEWとは、体たんぱく(骨格筋・血液中のたんぱく質)やエネルギー源(体脂肪)が減少して引き起こされる低栄養状態を示します。
蛋白・エネルギー消費状態と言い、食事摂取ができているのにも関わらず栄養障害が起きている状態のとこを指します。
透析患者では栄養摂取量とは関係なく、尿毒症物質の蓄積や炎症、蛋白質の異化亢進などの消耗で筋肉や骨・内臓(除脂肪量)が減少してしまいます。
これがPEWの特徴の一つです。
PEWの歴史
PEWの歴史においては以下のような動きがありました。
- 2006年:診療報酬改定における栄養管理実施加算の新設
- 2008年:PEWの提唱
- 2010年:栄養サポートチーム(NST)加算の新設
適切な適切な栄養管理を行うことはすべての疾患において重要ということです。
そして上記のような歴史から、栄養管理の重要性が広く医療者に認識され始めました。
栄養管理、栄養療法が特に重要となってくる疾患のひとつとして腎疾患があげられます。
PEWとPEM
透析患者の栄養状態を表す似たような言葉で、PEMもあります。
PEWとPEMがごっちゃにならないように以下に説明しておきます。
- PEW(タンパク・エネルギー消費状態)→ 食事摂取ができているのに栄養障害が起きている状態
- PEM(タンパク・エネルギー栄養障害)→ 必要な食事摂取ができずに栄養障害が起きている状態
透析患者はタンパク・エネルギー栄養障害(PEM:protein-energy malnutrition)が約40%ほど頻発しています。
患者の生命予後の向上にはPEMの発症を抑制し、しっかり栄養を摂取することも大事です。
PEMを早期に発見し、栄養状態の改善を行うことが大切です。
PEMはコチラの記事で解説しています。
PEWの原因
PEWの原因はいくつもあり、透析患者の栄養不良は以下の要因が複雑に絡み合っています。
- 食事摂取量の低下(不適切な食事制限)
- 代謝性アシドーシス
- 透析によるアミノ酸の流出
- 慢性炎症
- 尿毒素の蓄積(透析不足)
- 透析による身体的な負荷
栄養状態が悪く負のスパイラルに入ると、なかなか抜け出せません。
一般的な低栄養との違い
透析患者の栄養障害は単なる低栄養とは違います。
この質的に異なる栄養障害が近年PEWとして提唱されてきました。
一般的な低栄養と、透析における低栄養は何が違うのかというと…
一般的な低栄養は、食事摂取量不足や不適切な食事によって、脂肪が減少し、エネルギー代謝が低下することです。
一方、透析における低栄養を以下に示します。
- 代謝性アシドーシス
- 炎症によるタンパク異化
- エネルギー代謝亢進
→ 脂肪や筋肉などの体蛋白の喪失(サルコペニアの発症) - 尿毒素の蓄積による食欲抑制物質(レプチン)の血中濃度上昇
→ 食欲低下
また、透析では「低栄養」「慢性炎症」「動脈硬化」の3つが絡んでくるMIA症候群といった概念もPEWと関りがあります。
PEWの診断
PEWの診断は以下の4つのカテゴリーで構成されています。
この4つのカテゴリーの中で1項目でも該当するカテゴリーが3つ以上ある場合、PEWと診断されます。
【1.血液生化学】
- 血清アルブミン3.8(g/dl)未満
- 血清トランスサイレチン30(mg/dl)未満
- 血清総コレステロール100(mg/dl)未満
【2.body mass】
- BMI23.0未満(欧米人)、18.5未満(日本人)
- 非意図的体重減少:3か月間に5%、6か月間に10%以上
- 体脂肪率10%未満
【3.筋肉量】
- 筋肉消耗度:2か月間で5%、6か月間で10%以上
- クレアチニン産生率:2か月間で5%、6か月間で10%以上
- 上腕筋囲面積:健常人の平均より10%以上低値
【4.食事摂取量】
- 非意図的低たんぱく質摂取:少なくても2か月間0.8g/kg/day未満
- 非意図的低エネルギー質摂取:少なくても2か月間25kcal/kg/day未満
PEWの評価は正しいか?
PEWは国際基準です。
国際基準を日本人に用いて差異はないのか?というところが疑問点としてあります。
海外とは体格や検査方法が違います。
なので日本人用に数値等を若干変更して、診断することが望ましいです。
例えばBMIや血清Albです
BMIは欧米人は23.0未満が診断基準です。
しかしこれを、欧米人と体格の異なる日本人にはそのまま当てはめることができません。
日本人はBMI18.5または、20.0とする方が、PEWの生命予測が優れています。
さらに血清Albです。
血清Albは日本と欧米では、下記のように測定方法が違います。
- 日本:BCP法
- 欧米:BCG法
日本では80%以上の施設がBCP法です。
BCP法はBCG法に比べて、0.3~0.4(g/dl)低く出ます。
なのでPEWの診断で血清Albは3.8未満となってますが、日本では3.5に変更する必要があります。
参考文献:透析会誌 52(6):319~325,2019慢性透析患者における低栄養の評価法
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