はじめに
透析患者さんが内服する鉄剤に関して、「内服」と「静注」どちらが良いのか?
といった意見があります。
今回は「内服」と「静注」の特徴を解説していきます。
内服 vs 静注
【結論】どちらが優れているとかはありません
患者さんの状態によって内服が良かったり、静注が良かったりします。
また報告によっても違ってきます。
ではお互いの特徴をみていきましょう。
内服
内服は以下のような特徴があります。
- 酸化ストレスの低減
- 安価
経静脈的投与と比較して鉄の過剰状態や、酸化ストレスの誘因にはなりにくく、最も安全な投与方法と言えます。
またデメリットとなるようなこともあります。
- 消化管からの鉄吸収低下
- 副作用の消化器症状(嘔気、嘔吐等)
これらによって、服薬コンプライアンスが低下してしまいます。
これらの点から経静脈的投与が、貧血改善の点からは優れています。
「PO群はIV群に比べ、フェリチン100ng/mL未満かつTSAT20%未満の例は少なかった」という報告がある
しかしこれには…
- IV鉄剤は鉄欠乏が顕在化してから投与開始されることが多い → 内服は予防投与の場合もある
- 投与回数に13回と制限があるのに対し、PO製剤は鉄欠乏が顕在化する前から継続して投与される場合が多い
これらが関係していると思われます。
まだ検討の余地がありますね…。
静注
「貧血の改善」や「ESA製剤の使用量の低減効果」に関しては、静注の方が有効であったと多くの報告がある
しかし、これらの検討での安全性の評価は短期間(長いもので3ヵ月間)しか観察されていません。
鉄代謝障害に由来する有害事象を検討するには、十分観察されたとは言えません。
また静注鉄剤はヘプシジンを招き、鉄の囲い込み(ACD)の原因になることもあります。
遊離鉄の急激な増加を招き、酸化ストレスの原因にもなります。
その結果、血管内皮障害を惹起する可能性がでてきます。
また以下のような報告もあります。
POに対してIVは「深刻な心血管イベントが2.5倍」「入院を要する感染症発症が2.12倍」
IV製剤で副作用が多かったと報告されています。
IV鉄による酸化ストレスの上昇がヘプシジンの上昇と関連して、ESA抵抗性の増大にもつながると考えられています。
まとめ
メリット | デメリット | |
内服 | ・ 鉄過剰や酸化ストレスが少ない ・ 鉄過剰による感染症発症は少ない ・ 安価 | ・ 副作用の消化器症状がある ・ 静注より造血効果が感じにくい |
静注 | ・ 貧血改善効果は内服より優れる | ・ 鉄過剰による合併症が懸念される ・ 入院を必要とする感染症発症が2.12倍 ・ ヘプシジンの上昇が懸念される |
- 内服:鉄過剰のリスクは少ないけど、貧血改善効果は弱い
- 静注:貧血改善の効果はあるけど、鉄過剰のリスクはある
どっちを選ぶかはその患者さんの状態によるかなと思います。
参考:透析会誌 54(5):219~228,2021 血液透析患者における赤血球容積分布幅(RDW),平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)と腎性貧血治療との関連性
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