はじめに
鉄は「IRE/IRPシステム」という鉄調節機構があります。
これは少し難しいところではあるのですが、説明していきます。
IRE/IRPシステム
- IRE:鉄応答性要素(Iron-responsive element)
- IRP:鉄調節タンパク質(Iron-regulatory protein)
鉄代謝に関わるタンパク質の制御に関しては、遺伝子転写レベルのみならず、転写後においても制御が存在することが知られています。
すなわち、遺伝子のmRNAの翻訳配列の前あるいは後ろにIRE[5’-CAG(U/A)GN-3’]と呼ばれる特定の配列が存在し、同部に鉄欠乏のセンサータンパク質であるIRP1/2が結合することで、翻訳を阻害したり、促進したりしています。
いやぁ~難しいですね…
まとめると…
- IRE/IRPシステムによって鉄濃度は調整されているってこと
- TfR(トランスフェリンレセプター)やフェリチンの発現は、mRNAレベルで制御されている
- 細胞内鉄濃度によりIREとIRPの結合が変化し、mRNAの翻訳が亢進したり、反対に阻害されたりする
- そうすることで蛋白質発現が調整され、適度な鉄濃度に保たれている
翻訳ってなに?
- 転写:核内にあるDNA(タンパク質の設計図)がコピーされ、mRNA(伝令RNA)がつくられる過程
- 翻訳:mRNAが読み取られ、それに対応するタンパク質が作られる過程
転写は真核細胞の場合、核内で行われて、翻訳はリボソームで行われます。
遺伝情報はDNAからmRNA、そしてタンパク質に姿を変えます。
この一連の流れをセントラルドグマといいます。
IRPってなに?
IRE/IRPシステムのなかで重要となってくるのはIRPです。
IRPがどういった働きをしているのか知る必要があります。
IRP:鉄調節タンパク質(Iron-regulatory protein)
その名の通り鉄を調節してくれるタンパク質です。
IRPは鉄に関するタンパク質の合成をコントロールしています。
鉄に関するタンパク質とは「フェリチン」「トランスフェリン」「ALAS2(ヘム合成酵素)」などです。
ALAS2とは、赤血球のヘムを合成する酵素のことです。
IRPは以下のような働きをしてくれます。
- フェリチンの合成を抑制
- トランスフェリンやALAS2の合成を促進
IRPの鉄コントロールは非常に巧妙にできていることが分かったと思います。
しかし忘れてはいけない重要な特徴がもう一つあります!
IRPは鉄と結合すると、力を失います(不活性化)
なので以下にIRPの役割を3つまとめます。
- 「フェリチン」の合成を抑制
- 「トランスフェリン」や「ALAS2」の合成を促進
- 鉄と結合すると、力を失う(不活性化)
IRPの作用
IRPの作用はこの2つを想定して考えた方が分かりやすいです。
- 体に炎症が無くて、鉄欠乏の時
- 炎症があって、細胞内の鉄が多い時
まず「1. 体に炎症が無くて鉄欠乏の時」を想定して、IRPの作用をみていきましょう。
炎症がないので、全身の鉄代謝は回っている状態です。
しかし鉄欠乏なので、そもそも細胞内の鉄は少ないですよね。
つまり細胞内に、IRPに結合する鉄がありません。
すると、IRPはmRNAに働きかけて以下のようなことが起こります。
- フェリチンの合成を抑制する
- トランスフェリン、ALAS2はたくさん作る
細胞内の鉄が少ないと、鉄の貯蔵(フェリチン)を減らして、トランスフェリンで鉄を全身に輸送して、ALAS2を使って骨髄で赤血球をたくさん作ります。
こういう風に造血に働き、少ない鉄の濃度を調節するように働きます。
では、「2. 炎症があって、細胞内の鉄が多い時」について考えていきましょう。
細胞内の鉄が多い時、IRPは鉄と結合するので、不活性化します。
すると、本来のIRPの働きの逆の動きをするようになります。
- フェリチンの合成を抑制するのをやめる → フェリチンが増える
- トランスフェリン、ALAS2はたくさん作るのをやめる → トランスフェリン、ALAS2は作られない
つまり、細胞内の鉄が多い時は、フェリチンは沢山作られ、血清鉄、Hbは下がっていきます。
「フェリチン」と「TfR」の動き
「フェリチン」と「TfR」は、細胞内鉄濃度に応じて反対の動きを示します。
TfR | フェリチン | |
Low Fe | ↑↑ | ↓↓ |
High Fe | ↓↓ | ↑↑ |
細胞内鉄濃度に応じて反対の動きを示していることが分かります。
これらの鉄関連蛋白質の発現にIRE/IRPシステムが関与し、mRNAレベルで制御されています。
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