はじめに
透析患者さんにおいて貧血の指標になるヘモグロビン(Hb)は非常に大事です。
採血結果を見て、ESA製剤を増やすのか減らすのかを検討します。
用語解説を以下に示します。
- CKD:慢性腎不全
- EPO:エリスロポエチン
- ESA製剤:赤血球造血刺激因子製剤
腎性貧血ってなに?
骨髄で赤血球が作られるときに、エリスロポエチン(EPO)というホルモンが必要です。
このEPOは主に腎臓で産生、分泌されています。
腎不全が進行するとこのEPOの産生が低下して、骨髄での赤血球の産生が低下して貧血になります。
これを腎性貧血といいます。
簡単な流れは以下のような感じです。
腎不全が進行
↓
EPO産生低下
↓
赤血球産生低下
↓
腎性貧血
Hbの基準値
透析患者のHb基準値:10~12g/dl(週初めの採血)
とガイドラインでは記載がありますが、個人的には9~12g/dlくらいかなぁと思います。
13.5を超えないように調節します。
透析患者さんの週初めHb基準値は、下図のようにガイドラインに明記されています。
成人の血液透析(HD)患者の場合、維持すべき目標Hb値は週初めの採血で10g/dL以上12 g/dL未満を推奨する.(1C)
2015年版慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン
透析患者のHb値は10~12(g/dl)に維持することが、「2015年版慢性腎臓病患者における腎性貧血治療のガイドライン」で生命予後の観点から推奨されています。
Hbが10g/dl未満でも、12g/dl以上でも、基準値と比べて死亡リスクが高いことがわかっています。
腎性貧血の治療は、この目標値を達成するように赤血球造血刺激因子製剤(ESA製剤)の投与を調節することが主体です。
- 10未満:ESA製剤を増量または開始
- 12超え:ESA製剤を減量または中止
かなり大まかに言うとこんな感じとガイドラインには記載があります。
この際に、Hbの変動幅を大きくしない、ESA製剤の量は必要最小限にする、といった注意点があります。
透析患者の貧血の原因5つ
- 赤血球造血の抑制
- 赤血球寿命の短縮
- 鉄代謝障害
- 透析回路の残血
- 栄養障害
透析では貧血(Hb低値)に悩まされます。
貧血は上記のような原因がありますので、1つずつ解説していきます。
①赤血球造血の抑制
尿毒症性毒素が血液中で増加し、これらが赤芽球造血を抑制する可能性があります。
しかし、抑制物質として明確な尿毒素は確定されていません。
赤芽球のEPO感受性低下を引き起こすインターフェロンやTNFαなどの炎症性サイトカインの増加が報告されています。
また、サイトカインの異常がCKD(慢性腎不全)貧血に関係する可能性が指摘されています。
②赤血球寿命の短縮
CKD患者では赤血球寿命が30~60%短縮します。
放射線同位元素を用いた最近の解析では、透析患者の場合、赤血球寿命は約20%短縮すると報告されています。
赤血球寿命短縮の原因は、「赤血球膜障害による浸透圧脆弱性」「変形能の障害」「赤血球代謝障害」などがあり、詳細不明な点も多く残されています。
③鉄代謝障害
CKD患者では炎症性サイトカインのIL-6(インターロイキン6)を介して肝臓でのヘプシジン合成が亢進します。
そして、腎臓でのクリアランスも低下していることから、血中ヘプシジン※1濃度が上昇します。
※1 ヘプシジンとは、細胞内から血液中への鉄放出を抑制するペプチドホルモンのことです。
つまりヘプシジンが多く合成されると、血液中に鉄が入って来ず、貧血が進行してしまいます。
すると、血清鉄(Fe)の低下と細胞内鉄(フェリチン)の増加を引き起こします。
Feの低下は骨髄での鉄利用障害を引き起こし、貧血の原因になります。
透析の炎症性サイトカインといったら、IL-6が良く出てくるので言葉だけでも知っておこう!
④透析回路の残血
透析治療では患者の血液をきれいにするために、血液を透析回路に組まれたダイアライザに通す必要があります。
血液は空気や異物に触れると固まろうとする性質があり、回路の中や、ダイアライザーの中空糸内が凝血したり、血栓ができたりします。
抗凝固剤を使用して血液が固まらないようにしていますが、患者さんのその日の体調や性質(体質)、炎症反応などによって予期せず固まります。
この残血が貧血の原因になってしまいます。
⑤栄養障害
CKD患者では程度に差があるものの、何らかの栄養障害をきたすリスクが高いです。
ビタミンB12・葉酸など造血に必要な栄養素が不足しても貧血が進行します。
①~⑤までのこれらの要因がHbの低下をきたし、腎臓での不十分なEPO産生が貧血の維持に関係すると想定されます。
しかし、どの要因がどの程度貧血に関係しているか、その詳細については現在でも十分に解明されていません。
Hbが高いと、低いとどうなるの?
HbやHt(ヘマトクリット)が基準値を超えて高くなると、血液がドロドロになっている可能性が高いですね。
血液が濃いと、シャント不全(シャントの流れが悪くなりシャントがつぶれる)・心不全・脳梗塞を引き起こす可能性があります。
反対に低くなると、貧血が進行していることになるので、全身への酸素の供給が低いことになります。
それが、透析中の血圧低下につながります。
日常生活においてもふらつきや、動悸・息切れが起こります。
また急なHbの増加や減少も注意が必要です。
- 急なHbの増加:消化管出血
- 急なHbの減少:脱水
これらが進行している可能性もあるため、注意が必要です。
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