はじめに
腹膜透析をしていると、合併症が多くあります。
その中の一つで被嚢性腹膜硬化症があり、重篤な副作用です。
今回は被嚢性腹膜硬化症がなにかを説明していきます。
被嚢性腹膜硬化症ってなに?
被嚢性腹膜硬化症(EPS:Encapsulating Peritoneal Sclerosis)
被嚢性腹膜硬化症とは、腹膜劣化により変性した腸管壁同士が癒着し、その表面が強固な白色の被膜によって覆われて一塊となる病態です。
「腸管蠕動不全」や「腸閉塞症状」をきたします。
腹膜透析の合併症の中で最も重篤で、腹膜の癒着によって腸管が動かなくなります。
以下のような消化器症状があらわれます。
- 吐き気
- 嘔吐
- 腹痛
- 便秘
日本のEPSの発症頻度は0.9~2.4%と報告されています
発症の流れ
EPSの発症には流れがあります。
まず、長期にPD液に曝露され、腹膜中皮細胞が剥離・消失すると線維化が進行し、腹膜肥厚(劣化)が起ります。
さらに腹膜細血管の変性(硝子様変性と内腔狭小化)が起こり、腹膜透過性が変化します(first hit)
この状態に何らかの炎症状態(second hit)が加わると、腹膜細血管が新生・増生しさらに透過性が高まります。
それと共にアルブミン/フィブリンなどの大分子物質の透過性が亢進し、肥厚線維化した腹膜表面にフィブリンの膜が形成されます。
フィブリン膜がさらに変性硬化し、腸管全域を圧迫することにより症状が発生します。
原因
EPSの原因には、基本的に腹膜劣化が関わっています。
では腹膜劣化とはなにか?なぜ腹膜が劣化するのか考えていきましょう。
腹膜劣化=「腹膜機能の低下」+「腹膜形態変化」を包括する概念です。
腹膜機能の低下は、「限外濾過不全(除水不足)」や「腹膜透過性亢進」が特徴的です。
腹膜形態変化は、「腹腔鏡所見」や「腹膜病理組織所見」「排液中の中皮細胞診」によって診られます。
ここで、腹膜劣化の原因をみていきましょう。
腹膜劣化は以下のような、様々な原因が絡み合っています。
- 糖尿病などの基礎疾患
- 加齢
- 尿毒素
- 薬剤
- 腹膜炎
- 腹膜透析液
これらの原因が腹膜劣化を助長し、腹膜透析歴延長に伴い腹膜炎は増強する。
EPSのステージ分類
EPSにはステージ分類があり、Ⅰ~Ⅳまであります。
Ⅰ 前EPS期
Ⅱ 炎症期
Ⅲ 被嚢/進行期
Ⅳ イレウス/完成(慢性)期
以下の表に、ステージ分類の特徴を示します。
Ⅰの前EPS期では、腹部症状はほぼ無症状で、Ⅱの炎症期から「嘔気」「下痢」「食欲不振」が起きます。
また被膜が本格的に存在するのも、Ⅲ期からです。
治療(薬物療法)
日本では副腎皮質ステロイドがEPS発症後の第一選択です
副腎皮質ステロイドは「炎症」「腹水」「フィブリン析出」これらを抑制、防止します。
しかし海外での報告検討は限られ、副腎皮質ステロイド薬の選択するコンセンサス(意見の一致、合意)は得られていないのが現状です。
では、海外は薬物療法は、何を使用しているのか?
海外ではTamoxifenがヨーロッパを中心に広く使われている(エストロゲン受容体調節薬)
タモキシフェンは、日本での使用報告はありません。
タモキシフェンでは、以下のような効果があると報告されています
- 線維化促進因子の遺伝子発現抑制
- 中皮細胞の間質細胞の形質転換抑制
- 変性コラーゲンの除去促進
これらを介して、腹膜劣化を防止すると考えられています
オランダの研究では、タモキシフェン使用群での有意な生存率向上が報告されています。
腹膜劣化と被膜形成
「腹膜劣化」と「被膜形成」は必ずしも相関するものではなく、症例によって異なります。
- 腹膜劣化が「高度」だったら、軽度の炎症でも被膜は形成される
- 腹膜劣化が「軽度」であっても、高度の炎症があればEPSになりうる
つまり、劣化と炎症のバランスが重要になります。
そこに二次性副甲状腺機能亢進症があると、被膜と変性腹膜の間に石灰沈着が起こり、腸閉塞が進行する例もあります。
この他にもEPSは、「腹膜機能の低下」や「限外濾過不全」「透析液に関連した話」など、重要なところがあります。
この大事なポイントは、透析学習塾のコチラの動画で解説しています
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