はじめに
透析効率(Kt/V)を増やす方法は主に4つあります。
- 血液流量(QB)の増加
- 透析時間の延長
- 透析液流量(QD)の増加
- 膜面積の増大
今回は血液流量の増加について解説していきます。
透析効率とQB
QBを増加させると効率も増加します。
QBを増加させるということは、Kt/Vでいう「K」の部分が増加するということなので、透析効率も増加します。
※小分子量物質の除去は、血流量が増えれば除去量も直線的に増加します。
しかし、QB300以上で頭打ちになり、除去量は増えないというのはよく言われています。
特にミオグロビン(分子量17,000)などの低分子量蛋白は、分子量が大きくなるにつれて、除去量はQBを増やしても頭打ちになります。
ただし、β2-MG(分子量11,800)レベルの分子量までは、拡散で除去量が増えることがわかっています。
これは、ダイアライザが進化し、今では高性能ダイアライザ(ハイパフォーマンスメンブレン)が主流になっているからです。
※ 小分子量物質は以下のような物質です。
- 各種電解質:20~40
- BUN:60
- クレアチニン:113
- 尿酸:168
QBは多いほど長生きすることがわかっています。
図1のデータを見てわかるように、QB240以上で死亡危険度は最も低い値となりました。
QBが多い方が死亡リスクが少ないという結果になったが、一概にそうとは言えず、栄養状態や透析中の血圧を把握して適切なQBを設定することが大事です
透析患者の中でも健康な方は、常識範囲内で高血流がいいと思います。
QB変更時の注意点2つ
- 脱血状態を確認すること
- 針のサイズを確認すること
1つめの脱血状態の確認では、シャント血流量がどれだけあるか確認します。
シャント血流量が少ないと、透析途中で脱血不良が起きる可能性があります。
最低でもQBの2倍のシャント血流量があるか確認しましょう
2つ目はQBに対して、針のサイズは適切か確認しましょう。
上図を見てわかるように、おおよその脱血の基準は以下の通りです。
- 17G:180(mL/min)以下
- 16G:190~230(mL/min)
- 15G:240(mL/min)以上
また有効長(針の長さ)は短い方が流量はよくとれますよ。
このQBに関してはハーゲンポアズイユの式を知っておきましょう。
これは、乱流でない流体が管の中を通る時の関係式です。
- Q:流量
- r:半径
- μ:粘性係数
- L:管の長さ
- ΔP:圧力損失(P1-P2)
流量はr4半径とΔPに比例します。
つまり、針が太くて(r4)、圧損が小さいと(ΔP)多く流れます。
一方で、流量は粘性係数(μ)と長さ(L)に反比例します。
つまり、血液がさらさらで(μ)、針が短い(L)と多く流れるということです。
日本のQB
日本は海外と比べてQBが少なく、QB240以上は全体の10.5%です。
ではここで日本と海外のQBの比較をしてみましょう。
平均血流量を以下に示します(単位:mL/min)
- 日本:208
- ヨーロッパ:333
- アメリカ:419
ヨーロッパやアメリカの平均血流量は非常に高いですね。
シャント作成率も見ていきましょう
- 日本:91%
- ヨーロッパ:69%
- アメリカ:68%
欧米の血流量が多いのは吻合部位に関係します。
欧米は半分以上が上腕動脈で吻合しています。
日本で上腕動脈は1割程度です。
上腕動脈吻合は動脈径が末梢よりも太いので、多くの血流を確保することができます。
また、グラフトも日本より多いです。
QBと血圧低下
「QBを多くすると血圧が下がるのか?」といった現場での疑問が結構あると思います。
スタッフによっては、血圧低下していたらQBを下げたりしますよね。
そこんところどうなの?というのを解説します。
まずQBを下げたら血圧が下がるのか?
結論は「場合による」です。
例えば透析後半にQBを下げた場合、これは血圧低下の予防としてあまり意味がないでしょう。
透析後半は老廃物はもうほとんど除去されています。
つまり血漿浸透圧の低下はもうほとんど起きています。
なのでQBを下げて、血漿浸透圧の低下を止めようとしても、もうすでに下がりしろがないということです。
では、透析前半に血圧が下がってしまう患者においてQBを下げた場合。
これは、効果があると言えます。
透析前半は血漿浸透圧が著名に低下します。
だいたい透析1時間で老廃物の6割程度は抜けると言われています。
なのでQBを下げて老廃物の除去を緩やかにすることで、血漿浸透圧の低下も緩やかにし、血圧低下予防につながります。
昔と今の除水方法
「QBを多くしたら血圧が下がる!」と断定的な言い方になったのは、昔と今の除水のかけ方の違いにあります。
- 昔:膜の血液側から陽圧をかけることによって、除水をコントロールしていた
- 今:除水ポンプで制御し、機械側から膜に陰圧をかけている
昔は、患者によって膜内の圧力が違うので1人1人計算していました。
つまり静脈圧が上がれば、膜内の圧力も高くなるので、除水が多く引けてしまいます。
QBを上げると除水量誤差(いっぱい引けてしまう)が起きていました。
しかし今は、機械でコントロールしているのでQBを上げても除水量は変わりません。
QBを上げると心負荷がかかる!?
「QBを上げると心負荷がかかる」とおっしゃる方もいます。
これに関しては否定派が多い印象です。
しかし透析中にQBを上げるとPVループが変化しているから、心負荷は0ではないんじゃないか?と言っている方もいます。
高血流でもそれよりもシャントの流量や動脈における血液流量は当然の事ながら遥かに多く、同じ流量で脱血と返血を同時に行うにすぎず、高血流が心疾患や心負荷をもたらすという証拠は一切ありません。
記載:血液浄化療法 | 腎内科クリニック世田谷【公式】 人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口 (jinnaika.com)
こういった記事も見つけましたので、いろんな意見があるんだと思います。
上図のようにシャント血流量が1,000流れていて、QBが400だとします。
1,000のうち400が機械に送られて、その時AV間は600になります。
そして機械から400がまたV針に送られて、600に追加されて1,000になります。
心臓に返る血流量が特に増えるわけではないので、心負荷は変わりません。
【関連記事はコチラ】
コメント