はじめに
日本では長時間透析は普及しているとはいえず、実施数はまだ少ないです。
今回は長時間透析のメリット等を解説していきます。
長時間透析ってなに?
長時間透析とは週3回、1日6時間を基本とした週18時間以上のこと
透析の世界的な研究(DOPPS)によると、11の国と地域で標準的に行われている、週3回の血液透析(在宅透析は除く)の1回当たりの治療時間は、平均的に4時間です。
日本では平均3.92時間で、約4時間でした。
健常な腎臓は、週168時間休まずに働いています。
しかし、透析では週12時間程度しか腎機能の代替をできていません。
なので、十分とはいえません。
これくらいの透析量では、場合によっては厳しい食事制限や多数の薬を内服しなければなりません。
日本の6時間以上の「長時間透析」や週5回以上の「頻回透析」を受ける患者数は全体の1%にも及びません。
私も今まで500人くらいの患者の中で6時間以上の透析は3人だった。
これらの治療の普及が遅れているという現状があります。
長時間透析のメリット
- 合併症の減少
- 循環動態や生体恒常性の維持
- 食欲増進や栄養状態の改善
- 心機能の改善
- 薬剤の削減
長時間透析はメリットがいっぱいあります。
合併症の減少
長時間透析では尿毒素の除去量が増えるので、合併症の減少につながります。
以下のような合併症の改善が見込まれます。
- 低血圧の予防
- 搔痒症(かゆみ)の軽減
- 下肢つりの軽減
- 貧血の予防
- 透析アミロイド症の予防
- 心血管疾患の予防
尿毒素の除去量は、Kt/Vの式で表されます。
この「t」は透析時間のことです。
つまり、透析時間「t」が長くなるにつれて、尿毒素の除去量が増えることになります。
循環動態や生体恒常性の維持
透析時間を延長すると、除水や体液バランス、酸塩基のバランス補正も緩やかになります。
なので、循環動態や生体恒常性の維持ができます。
透析中の下肢つりも少なくなると考えられます。
食欲増進や栄養状態の改善
長時間透析は、緩やかにより多くの尿毒素や過剰水分を除去できます。
なので、合併症の減少や、食欲増進、栄養状態の改善が期待できます。
心機能の改善
除水が緩やかなため、ドライウェイトが適正となり、透析中や家庭血圧のコントロールが良好になります。
血圧が乱高下せず良好な状態は、心臓にかかる負担も少ないといえます。
なので、心機能の改善・維持効果が期待できます。
薬剤の削減
長時間透析では、薬剤の削減効果が期待できます。
- 血清リン値が低下➡リン吸着薬の削減
- 血中ヘモグロビン値上昇➡ESA製剤の削減
- 血圧安定➡降圧剤削減
これらの効果が期待できます。
透析患者さんは、一度に多量の薬剤を内服しています。
これらの薬剤には、主作用の裏に副作用もあります。
薬剤が減るということは、副作用も減るということなので、身体的・精神的な負担が少なくなります。
透析時間と死亡リスク
上のグラフから見てわかるように、透析時間が増加するにつれて死亡リスクは低くなります。
そして、「5時間以上が一番リスクが低い」という結果になりました。
6時間している透析患者さんは、すごく体が軽くなったと言っていました。
Kt/Vと透析時間
Kt/Vが高ければ透析時間は短くてもいいのか?というと、それは違います。
上図を見てわかるように同じKt/Vでも透析時間が短いと、死亡リスクが高くなります。
しっかり透析時間は確保することが重要です。
米国で、大きな膜を使って血流を上げることで、透析時間を短くしてもKt/Vを下げない治療を行った時期がありました(3時間透析でQB500mL/minとかの条件)。
すると、具合が悪くなる方がたくさん出てきました
つまり、Kt/Vが担保されていても、透析時間を短くすれば死亡リスクは増加するということです。
透析時間に関する報告
透析導入後の生命予後で「長時間透析群」と「従来透析群」とを比較した結果、長時間血液透析は、特に70歳以上の透析患者において、総死亡リスクが低下するという結果が出ました※1)
またもう1つの論文は、長時間透析導入後の生命予後で「BMI維持もしくは増加群」と「減少群」を比較した結果、長時間透析と自由食による治療を受ける患者において、体重が維持もしくは増えることは生存予後の改善と関連することが明らかになりました※2)
長時間透析 → 自由食で栄養改善 → BMI維持、増加 → 生命予後改善
患者さんにとって自由食はうれしいですよね。
しっかりご飯を食べて体重を増やして、DWの安定化につながる。
これは理想です。
※1 Impact of old age on the association between in-center extended-hours hemodialysis and mortality in patients on incident hemodialysis
※2 Survival Benefit of Maintained or Increased Body Mass Index in Patients Undergoing Extended-Hours Hemodialysis Without Dietary Restrictions
【関連記事】
コメント