はじめに
透析中では、下肢つりを起こす患者がよく見られます。
下肢つりが起こる前にどういった予防ができるのか?
また下肢つりが起きた場合の対処は、どのようなものがあるか解説します。
下肢つりの原因で「アルカローシス」「濃縮」「Ca」が関係してきます。
これらの理解がまだの方は、先にこちらの記事を読んでおくことでさらに理解が深まります。
下肢つりの予防3つ
- 透析間の体重増加を抑える
- DWの調節
- Ca値の調節
これらを一つずつ解説していきます。
1. 透析間の体重増加を抑える
透析間の体重増加を抑えることで、除水量を少なくし、過度な濃縮を防ぐことができます。
つまり濃縮性アルカローシスを防ぐことができるので、下肢つりも防ぐことができます。
透析間の体重増加を抑えてもらうためには、食事管理が必須です。
2. DWの調節
DWがきつい(引き込み)と体内水分が枯渇し、濃縮します。
つまり濃縮性アルカローシスを助長してしまいます。
なので下肢つりが起きやすくなります。
濃縮性アルカローシスを引き起こさないためにも、適切なDWを決定します。
3. Ca値の調節
前採血のCa値が低いと(8.4mg/dl未満)、下肢つりが起きやすくなります
なのでCaを基準値以内にしてあげることが必須です。
Caの基準値:8.4~10.0mg/dl
なぜCaの調節が必要かというと、アルカローシスになると、イオン化Caが減少します。
すると、筋攣縮が起こり、下肢つりにつながります。
つまり、Caが基準値内にあればイオン化Caが減少しても、下肢痙攣は起きにくくなります
なのでCa値が低い場合は、補充を検討します。
ここでの注意点としては、Ca値は補正Caの式を用いることです。
Albが4.0未満の場合は、Caの補正式を用います。
補正Ca=血清カルシウム(mg/dl)+(4-アルブミン)
アルブミンの単位:g/dl
また、Ca値を上げる場合は、P値も見ます。
P × Ca=55以上になると、異所性石灰化が進行するので注意が必要です。
Caが低い場合はどういう風に、Ca値を上げたらいいのか?
方法は以下の2つです。
- 活性型ビタミンD製剤の投与、内服
- Ca値の高い透析液へ変更(個人用透析装置への変更)
1.の活性型ビタミンD製剤の投与、内服では、薬によって調節します。
活性型ビタミンDはCaを上げる薬です。
静注投与と内服薬があり、以下に示します。
- 静注投与:オキサロール、ロカルトロール(ロカルトロールは内服薬もある)
- 内服薬:アルファロール、アルファカルシドール、カルシトリオール、ワンアルファ など
また、2.のCa値の高い透析液へ変更(個人用透析装置への変更)では、透析剤でCa値を調節する方法です。
Caが低い場合は、Ca値の高い透析液へ変更するといいでしょう。
透析剤を変更する場合は、該当患者さんを個人用の透析装置に移動させてあげるといいでしょう。
日本の場合はほとんどが、多人数用の透析液供給システムです。
なので透析剤を変更して多人数用で流すと、全ての患者さんに影響が出てしまいます
透析剤のCa値は以下を参考にしてください。
下肢つりの対処8つ
透析中に下肢つりが起きた場合は、素早く対処することが大事です。
- 補液(一番即効性がある)
- 除水ストップ
- 患部を温める
- 芍薬甘草湯の内服
- 筋肉をほぐす
- 足を下げる
- カルチコールの投与
- カルニチンの補充
下肢つりの対処の基本は、濃縮を進めないというのが原則です。
対処はこれらありますが、1つずつ解説していきます。
1.補液
補液は一番即効性があります。
下肢つりが起きているということは、濃縮性アルカローシスになっていると考えられます。
なので、濃縮性アルカローシスの反対である希釈性アシドーシスにもっていければいいわけです。
濃縮を希釈するためには補液が一番です。
補液をすることによって、細胞外液量を急速に増加させることができます。
2.除水ストップ
除水することによって濃縮してしまいます。
濃縮を止めるために除水をストップします。
3.患部を温める
筋肉が硬直しているので、弛緩させてあげます。
ホットパックや温かいタオルなどを用いて、患部を温めます。
患部も温まるし、気持ちいいので、患者さん喜びますよ。
4.芍薬甘草湯の内服
芍薬甘草湯は、筋痙攣に効く漢方です。
- 効果発現時間:5分
- 効果持続時間:4~6時間
効果が出るまで約5分ということから、「つりそうだな…」という感覚があってから飲むのもいいです。
つってから飲むのでも大丈夫ですよ。
また、いつも3時間目につるんだという方は、あらかじめ飲んでおいても大丈夫です。
芍薬甘草湯は飲みすぎ(連用)に注意しないといけません。
連用しすぎると、偽アルドステロン症を引き起こす可能性があります。
偽アルドステロン症とは、アルドステロンが過剰に分泌されていないにも関わらず、あたかも過剰に分泌されているかのような症状を示すことをいいます。
これは漢方薬の一成分である甘草に含まれる、グリチルリチン酸の作用によるものです。
偽アルドステロン症では高血圧や、低K血症が出現するので注意が必要です。
【芍薬甘草湯はコチラで詳しく解説しています】
5.筋肉をほぐす
3の患部を温める、と似ていて、筋肉が硬直しているので弛緩させてあげます。
やり方にはコツがあるので、リハビリの方とかにしっかり習ってから実践するのが良いです。
6.足を下げる
足が上がっていると、下肢がつりやすくなるので、足を下げてあげます。
下肢つりは血圧が下がっているときになりやすいので、下肢挙上してる時が多いです。
その時に足がつり、足が上がっていると、さらに増強させてしまうので、足を下げてあげましょう。
患者さんの血圧が低くなければ、座位にして、ベッドから足を下ろしてもらう方法もあります。
これは効果的ですが、起立性低血圧がある方は注意しないといけません。
7.カルチコールの投与
カルチコールはCaです。
先述しましたが、アルカローシスになりCaイオンが放出されることで、筋肉が攣縮を起こしてしまいます。
なのでCaイオンを補充するために、カルチコールを投与します。
8.カルニチンの補充
カルニチンを補充することによって、下肢つりを改善できる場合もあります。
これはエビデンスレベルは低いとは言われていますが…。
補充して患者さんに合っていれば、投与を続けてみればいいと思います。
カルニチンはATPの産生に関与します。
筋肉が収縮から弛緩をに移行するときは、ATPを分解しながらCaを取り込み、筋収縮が終了します。
カルニチン欠乏があると、ATP不足となり、Caの取り込みができず、筋収縮が続きます。
なので下肢つりにつながります。
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