はじめに
透析患者の代表的な疾患の一つとして、透析アミロイドーシスがあります。
透析アミロイドーシスは、アミロイドが沈着する部位によって疾患が異なります。
今回は透析アミロイドーシスの代表的な疾患5つを解説します。
代表的な5つの疾患
- 手根管症候群
- ばね指
- 肩関節症
- 肘部管症候群
- 手背のアミロイド症
透析アミロイドーシスは上記の5つの疾患が代表的です。
それぞれアミロイドが沈着する部位は異なります。
アミロイドが沈着部位は以下の通りです。
- 手根管症候群:手のひら
- ばね指:指
- 肩関節症:肩
- 肘部管症候群:肘
- 手背のアミロイド症:手の甲
では1つずつ解説します。
1.手根管症候群
キーワード:横手根靭帯、正中神経
手根管症候群は透析アミロイドーシスの中でも、最も代表的な疾患です。
透析歴20年の症例の50%以上に、手根管症候群が認められます。
手根管症候群とは、アミロイドが横手根靱帯に沈着して靱帯が肥厚し、正中神経を圧迫することにより発症します。
透析アミロイドーシスで1番早く出てきます。
正中神経の支配領域が、親指から薬指の半分(親指側)です。
なので親指から薬指の半分に痺れが出てきます。
その他のポイントを箇条書きで書いておきます。
- 握力の低下が起きる
- 糖尿病は発症が早い
- 術後、握力は3か月程度で改善する
神経の圧迫症状なので、例えるなら手が正座してる感覚です。
正中神経や手根管の位置を下図に示します。
透析患者の場合、透析年数が10年以上で、指のしびれがあれば手根管症候群と診断して間違いないみたいです。
以下のような症状の特徴があります。
- 安静時にひどくなる
- 透析の後半に指がしびれる
- 指のしびれで夜明けに目が覚める
これらの症状がみられたら、手根管症候群と診断できます。
また手根管症候群を放置しておくと、親指の付け根の部分の母指球筋が委縮してきます。(下図)
こうなってくると、握力の低下が顕著に出てきます。
ペットボトルの蓋を片手で開けられるかどうか、で判定に用いられます。
2.ばね指
キーワード:腱鞘、屈筋腱、PIP関節、弾撥
ばね指はアミロイドが腱鞘に沈着して肥厚することにより発症します。
指を伸ばすときに、バネが撥ねるように伸びるので、ばね指と呼ばれます。
腱鞘にアミロイドが沈着すると、屈筋腱の動きが引っかかるようになります。
- 腱鞘:手の指を曲げる腱
- 屈筋腱:腱を骨に固定する結合組織
すると、指を曲げたり伸ばしたりするのが困難になり、下記のような状態になります。
- 曲げる → 指の屈曲が困難
- 伸ばす → ある程度力を入れないと伸ばせない
こういった指の運動障害が起こります。
ばね指は腱鞘の抵抗が強いので、指を伸ばす時にバネが撥ねる様に指が伸びることがあります。
このような現象を弾撥現象と呼びます。
そして弾撥現象を起こすようになった指をばね指(弾撥指:snapping finger)と言います。
この他にも以下のような症状があります。
- 指の根部の疼痛
- 屈曲できず、手のひらにつかない
- 第二関節(PIP関節)が屈曲したままになる
透析患者はどの指でも発症し、同時に何本かの指に発症する場合があります。
そしてばね指も症状が改善することはありません。
日常に不具合が生じたり、弾撥現象が見られるようなら手術適応です。
PIP関節が屈曲している場合は、手術をしない限りまっすぐにはならず、屈曲が進行します(上図)
指の屈曲を放置すると以下のようなことが起こります。
- 術後も伸展しない可能性がある
- 筋力低下で屈曲が回復しないこともある
なので、早めの手術が大事です。
3.肩関節症
キーワード:烏口肩峰靭帯
肩関節症は烏口肩峰靭帯にアミロイドが沈着して、肩の痛みを起こします。
一般的な関節症は動かした時に痛みが出るが、透析患者では横になると痛みがひどくなります。
寝てると痛くて、起きてると楽、という方は透析アミロイドーシスを疑います
なぜ寝てると痛くて、起きていると楽なのか?
- 寝る → アミロイド沈着した烏口肩峰靭帯が上腕骨頭を圧迫して痛みが発生する
- 起きる → 起きると腕の重さで上腕骨頭が下がり、圧迫がゆるみ、肩痛は軽快する
肩関節症は、以下のような時に症状が出てくるといった特徴があります。
- 就寝中、夜明けに肩が痛くて目が覚める
- 透析3~4h目に横になっていると肩が痛くなる
こういった特徴があれば肩関節症かもしれません。
また透析後半は血圧が下がることが多いので、肩が痛くても起き上がることができないこともあります。
肩関節症と分かれば、烏口肩峰靭帯を切る手術をします。
肩の靭帯を切っても大丈夫!?
烏口肩峰靭帯の役割は上腕骨頭の脱臼防止です。
野球のピッチングやテニスのサーブを思い切ってする、という動作さえしなければ、脱臼することはないみたいです。
4.肘部管症候群
キーワード:尺骨神経、osborne靭帯
肘部管症候群は、尺骨神経が通過する筋膜(osborne靭帯)にアミロイドが沈着し、尺骨神経が圧迫されしびれが出ます。
肘の内側をぶつけると肘から小指、薬指にかけてしびれが走るよね。
あれは尺骨神経を打ち付けているからです。
その症状が慢性的に起きるのが肘部管症候群
手根管症候群では、夜間の疼痛で目が覚めることがありますが、肘部管症候群ではそれはまれです。
手術はosborne靭帯を切開し、尺骨神経を除圧します。
術後ひどいしびれはすぐに改善しますが、しびれの完全消失は手根管症候群に比べやや時間がかかります。
5.手背のアミロイド症
キーワード:背側手根靭帯
手背のアミロイド症は、背側手根靭帯にアミロイドが沈着することで、引き起こされます。
以下のような症状があります。
- 手背の腫瘤
- 手指が完全に伸展できない
- 親指を反らせない
- 親指背側の付け根が痛い
- 手首の背屈時に手背の疼痛
手首の背屈時に手背の疼痛が生じることから、立ち上がる時にこぶしを作ることが多いです。
透析患者がベッドから起き上がる時に、こぶしを作って手をついてたら、もしかしたら手背のアミロイド症が原因かも?
親指の伸筋腱は、第1区画と第3区画を通っています(上図)
神経の支配領域
以上5つの疾患を記載して、もうお分かりかもしれませんが、アミロイドは靭帯に沈着します。
そして、その靭帯の近くを走っている神経が圧迫されることで症状が出るということです。
まとめ
病名と靭帯と神経をまとめました。
- 手根管症候群:横手根靭帯:正中神経
- ばね指:指の腱鞘にアミロイドが沈着
- 肩関節症:烏口肩峰靭帯にアミロイドが沈着
- 肘部管症候群:オズボーン靭帯:尺骨神経
- 手背のアミロイド症:背側手根靭帯にアミロイドが沈着
【関連記事はコチラ】
コメント