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腹膜透析液の基礎 ~ブドウ糖とイコデキストリン~

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腹膜透析
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はじめに

腹膜透析の透析液にはブドウ糖透析液イコデキストリン透析液があります。

どういった違いがあるのか、また2つの透析液の特徴をみていきましょう!

  • 「ブドウ糖とイコデキストリン」をコチラでもっとわかりやすく解説しています
10分の動画で解説しています

透析液の組成と働き

腹膜透析液はの組成です。

 ブドウ糖またはイコデキストリン 浸透圧剤として過剰な体液を除去
 ナトリウム・マグネシウム 体内に蓄積されたナトリウム・マグネシウムを除去
 カルシウム カルシウムのバランスの是正
 乳酸 代謝性アシドーシスを是正するためのアルカリ化剤
 重炭酸ナトリウム  代謝性アシドーシスを是正するためのアルカリ化剤
 クロール 他の電解質や乳酸の濃度で二次的に決定
 カリウム・リン PD液には配合されていない

除水の推進力としてブドウ糖が入っているか、イコデキストリンが入っているかが大まかな違いです。

また、乳酸重炭酸がありますが、入っているものと、入っていないものがあります。

重炭酸の入っていない乳酸透析液や、重炭酸が入っている重炭酸透析液があります。

ここはまた別の記事で解説しています。

腹膜透析液の種類

  • ブドウ糖透析液:4~8時間の貯留
  • イコデキストリン透析液:8~12時間の貯留(保険上1日1回の使用に限る)

「ブドウ糖」と「イコデキストリン」は除水に関わる浸透圧物質です。

なので、除水の推進力として「ブドウ糖」を使用しているか「イコデキストリン」を使用しているか、この違いになってきます。

ブドウ糖とイコデキストリンの違い
  • ブドウ糖:時間の経過とともにブドウ糖が体内に吸収される。それによって浸透圧差が小さくなるので、除水効果が長時間持続しない。
  • イコデキストリン:分子量が大きく体内に吸収されにくいので、長時間貯留でも除水効果が持続する

ブドウ糖は血中に入る。

イコデキストリンは血中に入りにくい。

といった違いがあります。

イコデキストリンは、貯留時間が経っても除水量が落ちません。

では詳しく見ていきましょう。

ブドウ糖透析液

ブドウ糖透析液は、除水をするための浸透圧物質にブドウ糖を用いています。

特徴としては安価で、吸収されても代謝されてエネルギーになることです。

ブドウ糖透析液には、以下の3種類の濃度があります。

  • 1.5%
  • 2.5%
  • 4.25%

この濃度を腹膜の性質に関係ある、「除水量や尿量」「貯留時間」「体重の変化(体液量)」などによって、使い分けます。

腹膜の性質は個人によって異なるし、PD中も経時的に変化します。

このブドウ糖濃度の使い分けですが、例としては…

1.5%から使用開始

2.5%へ(尿量低下したから)

イコデキストリンへ(さらに除水が必要な場合)

って感じの流れですかね。(4.25%はあまり使用されない)

ブドウ糖濃度が高い方が除水量を増やすことができるが、体内へ余分なブドウ糖を負荷することになります

糖尿病患者には糖負荷になるので、高濃度のブドウ糖は注意が必要です。

ブドウ糖透析液の問題点

ブドウ糖やブドウ糖の分解産物(GDPs)によって、腹膜の劣化腹膜癒着が生じてしまいます。

腹膜透析において、GDPsはすごく大事なワードなので覚えておきましょう!

ブドウ糖やGDPsによって以下のような、腹膜組織への病理学的変化が生じます。

  • 腹膜中皮細胞の脱落
  • 中皮下組織への細胞外基質の沈着、線維化、血管新生

そこに急性の炎症(高濃度ブドウ糖液の使用、腹膜炎など)が起こると急激な腹膜劣化、腹膜癒着が生じます。

イコデキストリン

イコデキストリンは、分子量13,000~19,000のオリゴ多糖体です。

「ブドウ糖」と「イコデキストリン」の物質吸収の違いは、以下の通りです。

  • ブドウ糖:毛細血管から吸収(体内への糖負荷がある)
  • イコデキストリン:リンパ管から吸収(分子量が大きいから)

そのためイコデキストリンは、長時間貯留(8~12時間)での除水が可能です。

イコデキストリンの特徴を以下に示します。

  • 分子量が大きいので、腹膜を介して急速に吸収されることがない
  • 主として膠質浸透圧物質として作用する
  • なので血漿との浸透圧を維持しながら、限外濾過効果をもたらす

イコデキストリン開発の背景

イコデキストリンの開発の背景を説明します。

結論から言うと、イコデキストリンが開発されたのは、ブドウ糖を高濃度にしなくても除水量を維持できるからです。

低・中濃度透析液(1.5% , 2.5%)では、ブドウ糖が腹腔へ急速に吸収されてしまい、持続的な限外濾過(除水)が得られません

そのため1日量の除水量が不足してしまいます。

じゃあ「バッグの交換回数を増やし」たり、「ブドウ糖を高濃度に」すれば解決する!と考えるかもしれませんが、それをしてしまうと…

  • バッグの交換回数を増やす→労力が多くなり患者の負担が増える→ QOLの低下
  • ブドウ糖を高濃度(4.25%)にする→長期的な使用により肥満や高脂血症等の代謝への影響、更に腹膜組織への障害になる

といったようなデメリットが生じます。

このことから長時間貯留時において、限外濾過を維持できる、ブドウ糖に代わる浸透圧物質の探索が行われました。

そこで発見されたのがイコデキストリンです。

高分子浸透圧物質であるイコデキストリンが腹膜透析液に適することが見出されました。

イコデキストリンの特徴を以下に示します。

  • 分子量が大きいので、腹膜を介して急速に吸収されることがない
  • 主として膠質浸透圧物質として作用する
  • なので血漿との浸透圧を維持しながら、限外濾過効果をもたらす

イコデキストリン透析液のメリット

イコデキストリン透析液は、腹膜組織の炎症や線維化、血管新生などに対してブドウ糖透析液よりも悪影響が少ないことが推測されています。

またその他にも以下のようなメリットをもたらします。

  • 体液管理の点で優れている1)
  • 糖代謝や脂質代謝にも好影響 → 糖尿病性腎症にも使いやすい2)
  • 透析患者における最大の死因である、心血管疾患による死亡が減少することが知られている3)
  • 腹膜透析の治療継続率を向上させる報告もある

この他にもイコデキストリンの代謝で知っておくことや、イコデキストリン透析液の変遷はコチラの動画で分かりやすく解説しています。

1)Finkelstein F, Healy H, Abu‒Alfa A, et al. Superiority of icodextrin compared with 4.25% dextrose for peritoneal ultrafiltration. J Am Soc Nephrol 2005; 16: 546‒54.

2)Babazono T, Nakamoto H, Kasai K, et al; Japanese Extraneal Collaborated Study Group. Effects of icodextrin on glycemic and lipid profiles in diabetic patients undergoing peritoneal dialysis. Am J Nephrol 2007; 27: 409‒15.

3)Han SH, Ahn SV, Yun JY. Effects of icodextrin on patient survival and technique success in patients undergoing peritoneal dialysis. Nephrol Dial Transplant 2012; 27: 2044‒50

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