はじめに
オンラインHDFには前希釈と後希釈があります。
臨床効果は同じですが、注意すべき点やポイントなど、前希釈と後希釈はそれぞれ特徴があります。
今回は前希釈と後希釈の特徴について解説します。
前希釈(pre)の特徴3つ

前希釈というのはヘモダイアフィルタを基準として、ヘモダイアフィルタよりも前で希釈(補液)を行うので前希釈と言います。
Aチャンバに投与されます。
日本のオンラインHDFで90%以上が前希釈です。
《前希釈の特徴3つ》
- 濾過速度に制限がなく、大量置換が可能
- 前希釈は後希釈よりも小分子物質の除去が劣る
- 濾過量に比例して、低分子量タンパク領域の尿毒素の除去効率は高くなる
1つずつ解説していきます。
①濾過速度に制限がなく、大量置換が可能
前希釈はヘモダイアフィルタの前で希釈するので、膜に対する負担が後希釈よりも少なく、※QBの制限もありません。
なので大量置換が可能です。
大体6~15L/hの置換量です。
補液量の大体の目安としては…
- 基準:9~12L/h
- 積極的に老廃物を抜きたくて栄養状態の良い人:15L/h以上
- Albやアミノ酸など必要な物質まで抜いてしまう心配がある人:9L/h未満
多いとこだと15L以上/hしている施設もあります。
※QBの制限はないとしているが、基本はQBがQSを超えるように設定します。
QSが200ml/minだったら、QBはそれ以上に設定しないと、拡散効率が悪くなります。
・QB:1分間当たりの血流量
・QS:1分間当たりの補液量
②前希釈は後希釈よりも小分子物質の除去が劣る
前希釈は後希釈よりも小分子物質の除去が劣ると大体の記事で書いています。
しかし研究によっては、前希釈も後希釈も小分子物質の除去に有意差はほぼ見られないという結果もあります。
なので、そういうときもあるくらいで覚えておいていいと思います。
なぜ、前希釈は後希釈よりも小分子物質の除去が劣るのか?
- ヘモダイアフィルタに入る前に血液が薄まる
- ヘモダイアフィルタを流れる透析液流量が低くなる(設定を合わせることで改善ができる)
まず①のヘモダイアフィルタに入る血液が薄まるというのを説明します。
前希釈はヘモダイアフィルタの前で補液しているので、中空糸を通る血液が薄まり、拡散能が低下します。
それによって小分子物質の除去が劣ります。
次に②のヘモダイアフィルタを流れる透析液流量が低くなるというのを説明します。
例えば、透析液流量:500ml/min、補液流量:200ml/min の設定で前希釈を実施すると、ヘモダイアフィルタを流れる透析液流量は300ml/minになります。
なぜかというと、膜に入るまでに補液量分は盗まれるからです。(下図)
透析液流量(ヘモダイアフィルタを流れる流量)は基本500ml/minに設定が必要であり、400~500は流れていないと物質除去が不十分になります。
前希釈では補液流量が多いためヘモダイアフィルタを流れる透析液流量は少なくなります。
なので、総透析液流量を多く(前希釈なら600~700ml/min)設定してあげることが必須です。
これら2つが前希釈の拡散能の低下につながっているので、小分子物質の除去が劣っているとよく言われます。(理論上の話)
しかし、前述したとおり研究では、前希釈と後希釈の小分子物質の除去に有意差はほぼないというものもあります。
①はどうしようもないとしても、②に関しては、透析液流量を700程度に設定すれば、補液流量が200ml/minであったとしても、ヘモダイアフィルタの中は500流れています。
よって②は透析流量を増やすことによって対策できます。

前希釈は大量の透析液を使用するので、セントラルの供給量が追いつくかちゃんと確認してね!

③濾過量に比例して、低分子量タンパク領域の尿毒素の除去効率は高くなる
補液量を多くすると濾過量も増えるので、その分除去量がUPします。
なので低分子蛋白領域の尿毒素(β2-MGやα1-MG)が高い場合、もっと抜きたい場合は、より多くの補液量を設定します。
ちなみに分子量はβ2-MG:11,800でα1-MGは33,000です。
後希釈(post)の特徴3つ

後希釈というのはヘモダイアフィルタを基準として、ヘモダイアフィルタよりも後で希釈(補液)を行うので後希釈と言います。
Vチャンバから投与されます。
日本のオンラインHDFの約10%です。
《後希釈の特徴3つ》
- 拡散による小分子量物質除去効率は前希釈よりも優れる
- 濾過量は血流量の25%程度が上限(超大事)
- 前希釈よりも少ない置換量で低分子量タンパク領域の除去が可能
特に2番はめちゃめちゃ大事です。
①拡散による小分子量物質除去効率は前希釈よりも優れる
後希釈は膜の後で希釈をするので、前希釈とは違い薄まった血液が膜に入ることはありません。
なので、前希釈よりも拡散効率が良くなるといった考えがあります。
後希釈は前希釈よりも補液量が少ないので、透析流量は500~550ml/min程度の設定が良いと思います。
②濾過量は血流量の25%程度が上限(超大事)
ここはすごく大事なところで、別の記事でも解説しています↓↓
濾過量は血流量の25%が上限を言い換えると、後希釈の場合の血液流量は、総濾過量(補液量+除水量)の4倍はないといけませんよってことです。
後希釈では、ヘモダイアフィルタ内で血液濃縮、膜面でのタンパク分画が生じるので、濾過量に限界があります。
膜でろ過をしてから希釈をしているので、前希釈みたいに希釈液が膜を通過しないから、濃縮しやすいということです。
なので、総濾過量の4倍の血流量を回さないとヘモダイアフィルタ内の血液が固まってしまいます。
〔例〕
補液量:50ml/min、除水量:10ml/minだとすると、総濾過量は60ml/minになります。(2つを足す)
血流量はこの60ml/minの4倍なので、240は必要です。
血流量が240を下回ると血液が固まるおそれや、アルブミンリークに繋がります。
臨床で働いていると、3.5~4倍あれば、血液が固まったりアルブミンリークが起こるようなTMP上昇も起きません(その日の条件にもよりますが)。
前希釈には後希釈みたいに総濾過量と血液流量の関係に制限はありません。(基本はQBがQSを超える用には設定するが)
なぜかというと前希釈はヘモダイアフィルタの前で希釈してから除水するのに対し、後希釈は除水してからヘモダイアフィルタの後のVチャンバで希釈するからです。
希釈する前に除水をすると、ヘモダイアフィルター内の血液が濃くなりドロドロになり固まってしまいます。
なので血流量を早く回して血液凝固を防ぎます。
一方前希釈はヘモダイアフィルターの前で希釈するので、希釈された(薄まった)血液がヘモダイアフィルタ内を通ります
③前希釈よりも少ない置換量で低分子量タンパク領域の除去が可能
後希釈では少ない補液量で濾過圧を加えることができます。
なので、前希釈ほどの大量置換はする必要がありません。
後希釈の置換液量は、前希釈の4分の1で同等の効果が得られるといわれています
なので、前希釈で48Lは後希釈でいう12Lに相当します。
【関連記事はコチラ】
コメント