はじめに
透析では炎症によって、ヘプシジンが鉄代謝に関わることがあります。
今回は「ヘプシジン」「鉄代謝」「炎症」を絡めて、ヘプシジンが何かを説明していきます。
ヘプシジンってなに?
ヘプシジンとは、肝臓で合成される20-25アミノ酸からなるペプチド(たんぱく質)ホルモンです。
貯蔵鉄の増加と炎症により合成促進されます。
ヘプシジンの作用を理解するには、上図の、鉄の動きを理解しなければ話は進みません。
まず通常では、血液中の鉄が少なくなると細胞内鉄(フェリチン)から血液中に鉄が供給されます。
これが通常の動きです。
しかし、炎症のある透析患者さんは、血液中の鉄が少なくなっても、フェリチンは血液中に鉄を供給できなくなる場合があります。
なぜかというと、ここにヘプシジンが関与しています。
ヘプシジンは、細胞内から血液中への鉄放出を抑制します。
つまり炎症が起き、ヘプシジンの合成が亢進すると、鉄の利用を障害するというわけです。
また炎症だけでなく、鉄過剰によってもヘプシジンは産生されます。
鉄過剰(高フェリチン)→ ヘプシジン発現 → 血管への鉄の吸収を抑制する
ヘプシジンが発現されると鉄の囲い込み(ACD)が起きてしまいます。
鉄の囲い込み(ACD)ってなに?
ACD(anemia of chronic disease)とは、慢性炎症(疾患)に伴う貧血のことです
- anemia:貧血
- chronic disease:慢性病
透析患者ではACDによって「Fe(血清鉄)の低下」と「フェリチンの増加」が起きている場合があります。
これには「鉄利用障害」「鉄の囲い込み」が存在しています。
では「鉄の囲い込み」とは何か?
「鉄の囲い込み」とは、鉄が血管内に少なく、細胞内に無駄に溜まっている状態のことです
このため細胞内に鉄が無駄に溜まり、血管内に入ってこないので、「Fe(血清鉄)の低下」と「フェリチンの増加」が起きます。
これらが骨髄での鉄利用障害を引き起こす貧血の原因になります。
炎症がある場合(CRP↑↑)は、「Feの低下」「フェリチンの増加」が起きているときがあるので、患者さんのデータを見てみてください!
ACDになると「細胞内鉄は上昇」そして「Feは低下」が起こるだけでなく、以下の様な障害が出てきます。
- 網内系 → 鉄の利用障害、鉄の機能性欠乏
- 白血球 → 易感染性
- 血管内皮細胞 → 動脈硬化
- ミトコンドリア → エネルギー産生障害
なぜ透析患者はヘプシジンが産生されやすい?
透析患者は炎症状態に曝露されやすいので、ヘプシジンが産生されやすいです
CKD患者では「IL-6」「IL-1β」「TNF-α」などの、これら炎症性サイトカイン濃度が上昇し、ヘプシジンの発現を誘導してしまいます。
さらに透析患者さん、また透析治療特有の原因によっても、以下のような原因でヘプシジンが産生されやすい状況にあります。
- 透析液の汚染
- 透析膜の非生体適合性
- 原疾患の腎炎、尿毒症性物質の増加
- 膠原病の合併
- 悪性腫瘍や慢性感染症の合併
- サイトカインの腎代謝、排泄の低下
- AGEsの蓄積、動脈硬化症の合併
- 慢性心不全の合併
- 人工血管の生体適合性シャント感染
これら透析療法に由来するものも、炎症からヘプシジンが産生されやすい原因になります。
DIMES症候群
DIMES:dysregulation of iron metabolism and energy synthesis
- dysregulation:調節不全
- iron metabolism:鉄代謝
- energy synthesis:エネルギー合成
DIMES症候群とは鉄代謝障害が透析患者の合併症に関与している、 と考える病態をDIMES症候群と提唱しています。
ではその合併症とは、どのような合併症なのか以下に示します。
- ESA製剤低反応性貧血
- 動脈硬化
- 低栄養状態
- 易感染症
これらの合併症が鉄代謝障害によって起こってる、と考える病態をDIMES症候群といいます。
高サイトカイン血症・高ヘプシジン血症を有する透析患者は、「DMT1」「TfR(トランスフェリンレセプター)」「FP1(フェロポーチン1)」等の鉄輸送蛋白の発現異常により、生体内での鉄の偏在化が生じやすくなってます。
そのため、種々の細胞に鉄の囲い込みが起こりやすい状況にあると考えられます。
「透析とヘプシジンの関係性」や「ヘプシジンが抗菌ペプチドと言われる所以」などについてはコチラで分かりやすく解説しています
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